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著名人インタビュー この人に聞きたい!
渡邊雄一郎さん[シェフ/ジョエル・ロブション エグゼクティブ]

写真:渡邊雄一郎さん

辻調理師専門学校・同校フランス校卒業後、1991年よりフランスの1ツ星レストランや、ポールボキューズトーキョーの部門シェフを経験。 1994年 タイユバン・ロブション開業時に部門シェフとして厨房に入り、1998年よりタイユバン・ロブション カフェフランセ シェフ、2004年より現職。

ARROW 渡邊雄一郎氏の仕事白書


恵比寿ガーデンプレイスにひときわ目立つシャトーレストラン。そのエグゼクティブシェフの渡邊雄一郎さんは、仏料理界の巨匠ジョエル・ロブション氏の料理を伝える直系の日本人シェフとして活躍しています。食に関わる仕事の中でも華やかに見えるフランス料理の世界ですが、シェフになられたいきさつや、レストランの舞台裏について、魅力的なお話を伺いました。

取材日:2006年3月



第1章 コックコートに憧れて

料理本を「美味しそうだな」と眺めていた。そんな環境に育ちました。

【渡邊】母親が非常に料理好きで、料理の本が当たり前のように目に入る家でした。母と一緒に「きょうの料理」や「料理天国」といったテレビ番組を見ていた記憶もあります。母はパンも焼いていましたし、ホワイトソースも手作りでした。なぜかそこには黒い点がいっぱい入っていて「何、これ?」「黙って食べなさい」と言われて。今考えると実は焦げていたんですけれども(笑)、何かとチャレンジしていましたね。いまだに「私は出来合いのトンカツを買ってきたことがない」と言う母です。そういう記憶に残る料理を作ってもらったことは影響が大きいですね。母は専門家でもなく、ただ食べることが好きで、興味があったんでしょう。僕は田村魚菜先生の分厚い料理本を、「美味しそうだな」「食べたいな」と眺めていた。そんな環境に育ちました。

「包丁人味平」をまねして、水に浮かべたキュウリを切ったりしてました。

【渡邊】小学生の頃は、友達の家に行ってチャーハンやプリンを作ったりもしていました。当時、「包丁人味平」という料理マンガがあって、例えば洗面器にキュウリを浮かべて、包丁を振りかざし、波紋一つ立てずに切ったり、糸一本で肉をばらしたり。今の私たちから見たら、あり得ない、とんでもないマンガなんですけれども(笑)、それを真に受けて、自分でもできるんじゃないかと、実際に洗面器に浮かべたキュウリを包丁で切ったりしましたね。家庭科の授業も好きでした。目玉焼き一つでも上手にできたりするのがうれしい。そういった「ものづくり」が好きでした。

「コックさん、かっこいいじゃない」そう言ってくれた先生がいたんです。

渡邊雄一郎/シェフ

【渡邊】それから、テレビで見る白いコックコートを着たムッシュ村上(故村上信夫・元帝国ホテル総料理長)が、すごくかっこよかった。料理人になりたいと思い始めたきっかけは、食べたいものを食べたいという欲望と、コックコートのかっこよさ、憧れでしたね。

小学校の卒業文集で僕は「料理人になる」と宣言しているんです。なぜか「ホテルの料理長」と。当時はホテルの料理長が花形だったらしいんですよ。ただ、当時は男の子が料理をするのはかっこよくない、そういう時代で、料理上手なことに気恥ずかしい気持ちもあったんですよね。そんな僕に、当時担任だった中沢孝子先生が「コックさん、かっこいいじゃない」そう言ってくれたんです。その先生の言葉が、その後もずっと、どこかで自分の背中を押していました。今から考えると、公言したことで勇気がわき周囲が後押ししてくれた部分はありましたね。