HOME > この人に聞きたい! > 中田久美さん(元全日本女子バレーボール代表選手)

著名人インタビュー この人に聞きたい!
中田久美さん[元全日本女子バレーボール代表選手]

写真:中田久美さん

1965年東京都生まれ。80年、15歳1ヶ月で全日本デビューを果たす。84年ロサンゼルスオリンピック(銅メダル)、88年ソウルオリンピック(4位)、92年バルセロナオリンピック(5位)に出場、チームの要として活躍する。ゲームメイクセンスと技術力が世界で評価され、ワールドカップ1989ベストセッター賞を受賞。また、バルセロナオリンピックでは日本選手団の旗手を務める。92年引退。93年、第5回日本フェアプレー賞を受賞。95年に現役復帰を表明するも96年に引退し、日立ベルフィーユ アシスタントコーチに就任。1997年からフリーとして活動。現在は、テレビでのバレーボール解説や全国各地での講演活動、バレーボール指導などで活躍中。著書「叱る言葉~words cheering you up~」「天才セッター中田久美の頭脳(タクティクス)」(二宮清純著/日本バレーについての熱き対談録)など。


15歳で全日本代表に選ばれて以来、名セッターとして、オリンピックやワールドカップなどでチームを率いてきた中田久美さん。全日本の司令塔時代に果たした役割から現在の心境までを、本音で語っていただきました。

取材日:2007年11月



第1章 スポーツ馬鹿でいい。私はバレー一筋でやってきて、悔いもありません。

どっちの方向に進むにしても、無駄になることは何一つない

――プロスポーツ選手の場合、引退のタイミングや、その後のキャリアアップが難しい課題ですよね。

中田久美|どっちの方向に進むにしても、無駄になることは何一つない

【中田】たしかに難しいテーマですね。男子は会社に午前中勤めて午後練習というケースが多いので、引退してもそのまま会社に残る方がほとんどですけど、私の現役時代は、女子は会社に行ったことがなかったので、地元に帰るのが普通でした。やっぱり結婚をまず考えますね。結婚できる人はいいですけど、そうじゃない人は結構大変だと思います。

――僕自身は、スポーツ以外に将来のことも少しは考えたほうがいいと考えていますが、そんな甘っちょろいことをやっているとメダルはとれないという考え方もあります。セカンドキャリアは、引退してから考えればいいという考え方と、ある程度意識を持って、少しずつ積み重ねないと、引退して、突然社会人になるのはなかなか難しいんじゃないかという考え方と、二つの考え方があるようですね。

【中田】私は、現役中はスポーツ馬鹿でいいと思うんですよ。少なくとも、私の現役時代は、何かを片手間にやりながら、競技を追求していくことが難しい時代でした。私も普通の高校には通ってないですし、学歴という部分では無ですよ。でも、今困ったことってそんなにないんですよね。私はバレー一筋でやってきてよかったし、悔いもありません。

――アスリートが終止符を打って、ビジネス社会に貢献する際に、何かアドバイスはありませんか。

【中田】いろんなことをやってみることじゃないんですか、興味を持ったもの。私もそうしてきたし。私はたまたま(バレーボール界に)帰ってきましたけど、大林みたいに違う方向に行く、行ける人間もいるわけです。帰ってくることだけが必ずしも幸せなことだとは思わない。でも、いろんなことを片っ端からやってみるというのは、どっちの方向に進むにしても、無駄になることは何一つないと思うんですよね。

「好きなように進め。ただし責任を持つこと。」父の言葉はいつも心のどこかにありました。

――例えば中学生が、部活を一生懸命やりたいのに、親から「勉強もしなさい」と言われたら、どういうふうなアドバイスをしたらいいですか。

【中田】私は親に「勉強しなさい」って言われたことないんです(笑)。必要性を感じたら、自発的にやるようになりますよね。いやいやしていることって身にならないと思うんですよ。今の親御さんには、子どものやることを信じて見守ってほしいなと思います。私自身は、何をするにしても、親に反対されたことがありません。「やめなさい」とも「続けなさい」とも言われたことないんです。ただ、父から「自分の人生なんだから、好きなように進めばいい。ただし責任を持つこと。他人には迷惑をかけてはいけない。」とだけ言われました。それだけだったので、いい意味でプレッシャーでしたね。

――そういわれたら、自分で考えなきゃいけないですよね。

中田久美|「好きなように進め。ただし責任を持つこと。」父の言葉はいつも心のどこかにありました。

【中田】父のその言葉は、いつも心のどこかにありました。それから、常に帰る場所をつくってくれていました。だからこそ、自分の好きなことを思いっきりできたんだと思うんですね。母からは、「自分が10個の発言をしたら、1個でもいいから人の言葉に耳を傾けなさい」と。すべて聞けとは言わないけれど、聞く耳を持っておきなさいということですね。

――ご両親の言葉に非常に影響を受けたということですね。

【中田】そうですね。言葉数は少ないですけど、すごく重い言葉でした。頭ごなしに「ああしなさい、こうしなさい」と言うのではなく、じっと見守りながら、もし間違った方向へ行きそうになったら、一言二言「気にしているよ」と、子どもたちに伝えられれば、子どもたちも感じることがあるんじゃないかと思うんですけどね。

 
第1章|第2章第3章