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著名人インタビュー この人に聞きたい!
野口聡一さん[宇宙飛行士]
1965年、神奈川県生まれ。1991年、東京大学大学院修士課程修了。同年、石川島播磨工業(株)に入社。1996年、NASDA(現JAXA)が募集していた宇宙飛行士候補者に選定される。6月にNASDAに入社し、第16期宇宙飛行士養成コースに参加。1998年、ミッションスペシャリスト(MS:搭乗運用技術者)として認定された。2001年、STS-114(ディスカバリー号)のクルーに選定されるが、コロンビア号の事故により、長期にわたり打ち上げが延期となった。
2005年7月、宇宙へ。船外活動の主担当として、延べ20時間を超える作業を行う。2008年5月、国際宇宙ステーションの第20次長期滞在搭乗員に任命される。著書に、「宇宙日記](世界文化社)、「オンリー・ワン」(新潮社)、「宇宙においでよ!」(講談社)などがある。
「人類の夢」というこの上ない大きな任務を担い、地球を飛び立つときは世界の注目を浴びる職業、宇宙飛行士。野口聡一さんは、2005年7月にスペースシャトル「ディスカバリー号」に搭乗し、日本人宇宙飛行士として初めて国際宇宙ステーションで船外活動を行いました。さらに、2008年5月には、国際宇宙ステーションの第20次長期滞在搭乗員に任命され、新たなミッションに私たちの期待も高まります。今回は、訓練施設のあるアメリカから、貴重なメッセージをいただきました。
取材日:2007年12月
●第1章 しっかり勉強して健康であれば、夢実現への基本条件はクリア
文科系職業の方が待遇がいいという社会の現実が、理科離れの原因
――15歳児を対象にしたOECDの学習到達度調査で、日本の科学的応用力が、前回の2位から6位に落ちました。しかも、「科学に興味がある」と答えた子の割合が、57カ国中52位とほとんど最下位レベルで、科学に興味のある子が極めて少ないことが問題になっています。
【野口】子どもたちと話していて、理工系の人気が著しく低いと感じることはあります。理科離れと言われて久しいですけれど、応用力が落ちてきているというのはショックな事態ですね。我々宇宙飛行士も、科学の世界に興味を持ってもらおうと一生懸命頑張っていますが、応用力が落ちているということは、科学技術立国を支える足腰が弱ってきているということであり、非常に憂慮すべきことだと思います。
私は、理科離れについて聞かれるといつも言っていることがあります。それは、私が子どものころは、どの職種が大変で、どの職業の収入が多いか分からなかったので、漫画や小説の世界で面白いと感じたことに、スッと入っていくことができました。ところが、今の子どもたちにはいろいろな形で情報が入り、大人の世界の実情を知ることができます。そのため、自分の将来を考えるとき、何をすると得かということにまず関心が行き、評価されていないことはやりたがらないという風潮が、やはりあると思います。ですから、技術者の人たちが、たとえば金融系なり、文系の人たちと比べて大変なわりに評価されていないことが見えると、なかなかそっちには行きたがらないんじゃないかなと。それでなくても、今の子どもたちは面倒なことはやりたがらないですからね。「宇宙は好きだけど、大変そうだからやらない」というのは、本当によく聞くセリフです。苦労を乗り越えて大きな目標を達成したときには、何物にも代えがたい喜びが得られるということを伝えるのが、年々難しくなっている感がありますね。
理工系職業の社会的評価を高めれば、科学好きの子どもが増える
――対応策としては、野口さんのような方が発信するしかないということでしょうか?
【野口】あとは、理工系に進んだ人が、給与面や生活待遇面であまり評価されていないので、理工系を増やしたければその職業を評価するように社会を変える必要がありますね。資源のない日本が科学技術で国を支えていこうとするのであれば、科学技術を学んだ人をもっと厚遇すべきだと思います。そうでなければ、文系の職業の方が給料が多いことを知った子どもたちは、日本には科学技術が大事だとは分かっても、国のために勉強しようとは思わないのではないでしょうか。
――問題はなかなか根深いですね。
【野口】根深いというか、大人の社会で評価されていることが、如実にあらわれてしまっているだけで、そこはいくら理系離れが著しいからといって、お題目で「理科の勉強をしなさい」と言っても、大人の社会での評価を変えなければ、子どもたちは変わらないということです。
宇宙飛行士になれたのは、能力があったというより、ミッションにあてはまったから
――高校1年のときにスペースシャトルを見て宇宙飛行士になろうと思ったそうですが、宇宙飛行士になるにはどうすればよいのですか?
(提供 NASA・JAXA)>
【野口】講演会でもよく質問されますが、小学生だったら、「体を強くして、学校の勉強を頑張って、友達と仲良く」というようなことを言います。中学生だったら、「英語や理科は大事だから、英語はしっかり勉強して話せるようにしておいたほうがいいよ」と。高校生・大学生になれば、「自分の専門を持って、海外の人たちと渡り合えるくらいの力をつけて、なおかつ体を大事に、不摂生をしないように」と言っています。それは結局、いい社会人というと大げさかもしれませんが、どの職業にも共通のアドバイスになるのではないかなと、いつも思いながら話しているところはありますね。
――ただ、思ってもなれない人がほとんどで、野口さんは572倍もの倍率を勝ち抜いて、さらにそこから宇宙に旅立ちました。そこには、他の人より努力したことや、特別な能力があったのでしょうか。
【野口】能力的にそれほど特別なことはありません。宇宙および航空に関する勉強をしていたことと、あとはタイミングがよかったんだと思います。そのほか、海外の人たちと一緒に働くということも含めて、外の世界に対する興味はちょっと強かったかもしれませんね。
――人よりすごく意識してやったことは、特になかったのですか。
【野口】宇宙飛行士になりたいという人に対する、就職対策とか就職活動って、あまりないんですよね。まず応募条件として、対象者の範囲が非常に広い。理系の学校を卒業して3年程度の実務経験があり、英語が堪能で、加えて、長期間外国で働けるということでしょうか。その前提として、健康な体。たとえば、裸眼の視力が0.1以上(現在の応募条件では両眼とも矯正視力が1.0以上)であるとか、身長が何センチ以上であるとか、医学的な条件は入りますが、それでもたいていの人が落ちるほど厳しい条件ではありません。
要するに、その時々でいろいろなミッションがあるわけですが、優秀かどうかではなくて、ジグソーパズルの欠けたピースのような感じで、そのときの宇宙計画にぴったり当てはまる人物を採っているのではないかという気がしますね。
- No.39 大九明子さん
- No.38 はまのゆかさん
- No.37 樋口弘光さん
- No.35 小松亮太さん
- No.34 おかひできさん
- No.33 桐谷美玲さん
- No.32 萩原浩一さん
- No.31 漆紫穂子さん
- No.30 柿沢安耶さん
- No.29 中村憲剛さん
- No.28 平澤隆司さん
- No.27 田川博己さん
- No.26 笹森通彰さん
- No.25 野口健さん
- No.24 中田久美さん
- No.23 ルー大柴さん
- No.22 松本素生さん
- No.21 田原総一朗さん
- No.20 野口聡一さん
- No.19 三枝成彰さん
- No.18 渡邉美樹さん(2)
- No.17 伊達公子さん
- No.16 佐藤可士和さん
- No.15 渡邉美樹さん(1)
- No.14 中田宏さん
- No.13 蓮舫さん
- No.12 竹中平蔵さん
- No.11 前原誠司さん
- No.9・10 渡邊雄一郎さん
- No.7・8 冨田勲さん
- No.5・6 高野登さん
- No.3・4 乙武洋匡さん
- No.1・2 藤原和博さん