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著名人インタビュー この人に聞きたい!
渡邊雄一郎さん[シェフ/ジョエル・ロブション エグゼクティブ]



第6章 料理業界を目指す人へのメッセージ

結局は個人の意識。ただ、親のしつけも問題ですね。叱れない親が多いんですよ。

【渡邊】何をやろうと考えても、最終的にはプロの世界ですから、結局は個人の意識なんですよね。

ただ、最近は少なからず親の教育もあるとは思うんです。言葉遣いであれ、あいさつであれ。就職面接にジーパンで来た子もいますが、それは親のしつけだと思います。家は原点じゃないですか。叱れない親が多いんですよ。

幼稚園では幼稚園なりの、あるいは小学校なりの、社会なりのルールを教えるのは親だと思いますね。今、おっかないおやじも少ないみたいで、調理場で僕に初めて叱られた子もいます。「おまえは絶対間違っているから、おれが今叱ってやるよ」と言って。そういう子が多いんですよ。家庭のしつけだと思います。

採用の立場から見れば、まず1年目、2年目は、あいさつができて、返事ができて、掃除ができればいい。あとは、バイト感覚で来られては困ります。これから給料をいただくというプロ意識と社会人意識、それをいつも言っています。

芯がないと派生はない。大切なことは基本と心構えです。

【渡邊】料理業界は常に進化し、動いています。10年前と今では全く料理は違いますし、10年後も必ず変化すると思います。今13歳の人たちが20歳ぐらいのときにはどうなっているのか、僕もイメージができませんね。宇宙食みたいになっているかもしれませんし。

だから、常に情報は仕入れています。最近はスペインのエルブリに代表される料理が注目を浴びています。フランス人は「キュイジーヌ・シミック(化学的な料理)」と皮肉っぽく言うんですが、流行としては面白いと思いますし、その最新テクニックを取り入れることもあります。完全否定するのではなく、一度、自分のフィルターを通して、フランス料理の枠や、ジョエル・ロブションのイメージを崩さないように取り入れるという考え方です。

僕は、フランス料理にはクラシック料理とレジョナールと呼ばれる地方料理が必ず残っていくと信じています。それをベースにした料理をお客様の反応に合わせ、時代のニーズに合わせて提供していくことが僕の仕事だと思っています。

その中で大事なことは、料理を作る基本だけなんですね。芯をしっかりさせておかないと派生がない。何事も基礎だと思います。清潔であること、料理人としての心構え。最終的には人の口に入るものを作っている。その仕事の大事さを常に意識するという考えですね。

料理が好き。ものづくりが好き。あとは、あきらめないこと。

渡邊雄一郎/シェフ

【渡邊】料理業界を目指す人には、まず料理好きになってもらいたいですよね。作るのも、食べることも。あとは、お医者さまと同じぐらいと言っては大げさですけれども、生きるために摂取する食べ物を作る。その大事さを意識すること。

それから、ものづくりをする喜びを感じてほしい。形のないものから形を作っていくこと、いろんなものを組み合わせて味が形成されていくこともそうですね。職人の喜びとでもいいましょうか。

あとは、夢と目標を立てて、それをあきらめないということ。

この間、あるテレビ番組に出ることになりまして、小学校時代の恩師に「ぜひ見てください」と電話をしました。「コックさん、かっこいいじゃない」と言ってくれた先生です。「初志貫徹して、先生、うれしいわ」と言っていただき、恩返しができました。

小学校で公言していたから、旧友は「やっぱり料理人になったんだね」と喜んでくれます。初恋の人が雑誌に出ていた僕を見つけて、わざわざ食べに来てくれて、感動的な再会を果たしたこともありました。

料理人になってからも、山本益博さんに初めて世間に紹介していただき、少しずつ世に出るようになりました。思い入れのある記事や美味しそうに撮っていただいた料理の写真はすべて覚えています。皆様にほんとうに感謝しています。

生まれ変わったらなりたい職業ですか。料理人じゃないですか。

うん。そう思いますよ。