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著名人インタビュー この人に聞きたい!
渡邊雄一郎さん[シェフ/ジョエル・ロブション エグゼクティブ]



第3章 調理場で求められる資質

調理場での料理はチームプレー。新卒採用では、団体競技の経験を見ることもあります。

【渡邊】もともと、調理場のヒエラルキー(階層)は軍隊を参考にしているらしい。僕がオーダーを読むと「ウィ、シェフ!」と下の者が反応する。指示の伝え方が非常にうまくできています。同じ意識を持って、同じ気持ちで料理を作る。

調理場での料理は団体競技とも似ていると思います。「人のために何かができるか」。例えば、相手を気遣ってダブルプレーしやすい位置に球を投げられるか。だから僕は高校でスポーツをやってきた人をすごく評価するんです。新卒者の採用でも、団体競技をやってきたかどうかを見ます。

10年やってきた「タイユバン・ロブション」は、2004年12月より「ジェエル・ロブション」として生まれ変わりました。ロブション氏単独のレストランを日本でリニューアルすることにすごくプレッシャーもありました。そのオープニングの過酷さはまるでマグロ漁船を懸命に動かしているような、ものすごい勢いでした。でも振り返ると、楽しい満足感のある思い出だけですね。今でも「みんなで一丸となって頑張ったよね」と話しています。

最終的にはコミュニケーション。いかに人を好きになって、好きになってもらうか。

渡邊雄一郎/シェフ

【渡邊】僕は団体を動かしていく意識を常に持ち、調理場の仲間と話をするようにしています。料理の話や「昨日は何のテレビを見た?」「何を食べに行った?」とか。だから、コミュニケーションのとり方に難しさを感じたことはないですね。

フランスで修業に行っても、一人でいるよりは友達を作って、フランスの空気を感じて、フランス人が日常に何を食べて、何を考えているんだろう、最終的にはそういうことまで含めた文化を吸収してきなさい、これから行く者にもよくそう言っています。

僕も、リヨンの近郊にある当時1ツ星のレストランで修業しました。もう18年ほど経ちますが、今も連絡を取り合う、まるでフランスのお父さんみたいな存在です。その方の名前はジェラール・アントナンといって、うちの父親と同い年なんですよね。いまだにそういった関係を築けているのはすごくうれしいことです。

だから、最終的にはやっぱりコミュニケーションですよね。いかに人を好きになり、好きになってもらうか。若い子は焦っていろんなことをやりたがります。あるいは戦略的に考える方もいるんですけれども、とにかくやるべきことを、正直に、自然体でやるのが僕は一番だと思いますね。何事も一生懸命やれば、自然と道は開けます。

次回は、渡邊シェフの料理人としての喜び、「食育」への視点、料理業界を仕事に選ぶ人へのメッセージを伺います。