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著名人インタビュー この人に聞きたい!
渡邉美樹さん[ワタミ株式会社 代表取締役社長]

写真:渡邉美樹さん

明治大学卒業後、経理会社で会計業務を学び、運送会社で事業資金を貯める。1984年に会社を設立。「つぼ八」のFC店を経た後、独自ブランドの居食屋「和民」を展開。2004年郁文館夢学園の理事長にも就任し、現在は介護・農業・環境・教育の各分野へ事業を拡大中。自らの夢に実現予定の日付を記し、常に持ち歩くことで知られる若手経営者のトップリーダー的存在。高杉良の小説『青年社長』のモデルでもある。

ARROW 渡邉美樹氏の仕事白書


「夢に日付を」を座右の銘に、それを着実に実現してきたワタミ株式会社の渡邉美樹社長。2020年の1兆円グループ企業という次なる夢に向け、外食以外の介護・農業・環境・教育など新規事業も展開しているところです。教育においては、現在、個人として郁文館夢学園の理事長になり、学校教育の改革に取り組んでいらっしゃいます。教育現場で感じる問題点、子どもたちの価値観、さらにご自分の夢についても語っていただきました。

取材日:2006年8月



第1章 「仕事」は「生きることそのもの」

とびきりの「ありがとう」がもらえるかどうかが仕事の選択の基準

――著作をいろいろ読ませていただいておりますと、24歳で社長になり、2000年に東証一部上場、2020年に1兆円の企業へと目標を掲げ、着々と達成されていらっしゃいます。まず、渡邉社長が仕事の上で一番大事にしていることについてお聞かせいただきたいと思います。

【渡邉】「仕事」ってね、それは何だろうか、ということだと思うんですよね。仕事はお金を得る一つの作業であるという考え方も当然あります。しかし、僕の場合は「仕事」は「生きることそのもの」です。人間は何のために生まれてきたのか、何のために生きるのか、そして、どう死んでいきたいのか。その考え方や価値観に基づいて、今の自分の仕事があるわけですよね。ですから、僕にとって「仕事」というのは、息をするのと同じですよ。

――事業を拡大し、やりたいことがどんどんと広がってきていらっしゃいますよね。何を基準に選択されているのでしょうか。

渡邉美樹/ワタミ株式会社 代表取締役社長

【渡邉】「何のために仕事をするか」が明確ならば、当然その仕事の広がりにも関係していきます。僕の場合にはもともと、人間は人間性を高めるために生まれてきたんだという考え方があるんです。だから、仕事を通して人間性を高めていくんだ、そのために、「地球上で一番たくさんの「ありがとう」を集めるグループになりたい(※)」という非常にシンプルなミッションが出来上がっています。仕事の広がりで言えば、「ありがとう」が集められるのかどうか。それから、誰が提供する商品でもいいわけではなく、自分が提供するからこそもらえる「ありがとう」なのかどうか。つまり自分の経営資源、持っているものすべてを用いて、ナンバーワンの、とびきりの「ありがとう」がもらえるかどうかが仕事の選択の基準になるでしょうね。

※……「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集めるグループになろう」は、ワタミグループの経営理念をあらわすスローガン。

幸せは自分だけのものじゃなく、みんなと一緒に幸せがあると思える。それが優しさの根本

――社長がおっしゃっている人間性が高まるというのは、具体的にはどんなことをあらわしているんでしょうか。

【渡邉】人間として優しく強く正直になることです。人間というのは、本来怠惰だったり、嘘つきだったり、自分のことしか考えない動物だと僕は思うんですね。でも、掘り下げるなら、人間というのはもっと優しくなれるし、もっと強くなれるし、もっと正直になれるわけですよ。その「もっと」を高めていくといいますか、人間が本来持って生まれた美しい資質を高めることが、僕の「人間性を高める」という意味です。

人間性を高めていくと、幸せは自分だけのものじゃなく、みんなと一緒に幸せがあると思えるようになる。それが優しさの根本であり、みんな幸せになれる考え方ですね。
要するに幸せになるための方法なんです。自分のことしか考えず、お金で何でも買えると思い、もっと何かを欲しがる限り、絶対人間は幸せになれない。日本も世界もそれでは成り立たなくなってしまう。僕の考える「人間性」というのは、そういうことです。

僕の仕事は、全部、教育です

――そういった広がりの一つとして教育産業への参入があったということでしょうか。

渡邉美樹/ワタミ株式会社 代表取締役社長

【渡邉】難しいのは、僕の考え方は全部教育に包括されちゃっているんですよ。人間性を高めるために生まれてきたんだから、そのお手伝いをすることが一番尊い仕事です。すると、教育はそのものずばりなんですね。だから外食産業も、僕は外食産業だと思ってない。教育産業だと思っている。

働いている社員に人間として成長してほしいから、外食産業で頑張ってもらう。あるいは人間として成長してほしいから、介護施設でおじいちゃん、おばあちゃんに寄り添ってもらうという考え方で介護事業へも広がりを持たせる。つまり、特定の教育事業というよりも、教育というのは僕にとって全部なんですよ。たまたまその中で、このたび介護の教育事業を設立すると発表しましたし、個人では教育そのものである郁文館夢学園をやっているわけですが、僕の仕事は全部、教育です。