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著名人インタビュー この人に聞きたい!
高野登さん[ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社 支社長]

写真:高野登さん

1953年、長野県生まれ。 ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社 支社長。
プリンス・ホテルスクール(現日本ホテルスクール)第一期卒業後、ニューヨークに渡り、ホテルキタノ、 NYスタットラーヒルトン、NYプラザホテル、SFフェアモントホテルを経て 1990年ザ・リッツ・カールトン・サンフランシスコ入社。1992年に日本支社立ち上げのために来日。 その後ホノルルオフィス開設のためハワイへ転勤後、1994年に日本支社に転勤。ザ・リッツ・カールトン・ホテル大阪の開業準備に参画。現在は東京の開業を見据えブランディング活動に取り組む。リッツ・カールトンの成功事例を中心にした、企業活性化・人材育成・社内教育などの講演依頼が後を絶たない。


第1弾では、ホテル・観光業界のこれから、ホテル業界の魅力、そしてホスピタリティ業界が求める人材像についてお伺いしました。今回はその続編として、近年の学生たちの傾向や、大人(親)が仕事を楽しんでみせることの大切さなどをお話しいただきました。



第4章 自分を出せない子どもたち

「まず、思ったとおり口に出すことからスタートしていいんじゃないのかな?」

高野登/ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社 支社長

【高野】我々が求める人材を見つけるのは、年々難しくなっています。ただ、それを「今の若い人たちは」という言い方で括ってしまうのはどうかなと思います。

今回、本(「リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間」かんき出版)の出版をきっかけに、若いホテルマンや学生さんたちの勉強会に講師で招かれました。この本を読まれた方が結構多くて、ネット上で受講生の募集をしたところ、最初の5分間で30人ぐらい、最終的には300人以上集まったんです。勉強会の後、学生さんたちが100人近く残って、本を持って「サインください」と言ってくれました。

そのときに「どういう勉強をすれば、本に書いてあるような表現ができるようになりますか」という質問がすごく多かったんです。私は彼らに「怖がらずに思ったとおりにまず口に出すことからスタートしていいんじゃないかな」と言いました。このように、学生と接すると「今の学生達は自分の感性を表現する訓練を受けていないんだな」と痛いほど感じる瞬間があります。

自分は本当にサービスが好きです、人が好きです、ホスピタリティを極めたいですと何とか伝えたい。でも「それをどう表現したらいいか、よくわからないんです」と言う。「そのまま、好きですと言えばいいじゃないですか」「いや、それを口に出してしまっていいんですかね」「出しなさい、どんどん出しなさい」。要は不器用なんです。自分の心の扱いにも不器用。だから、人との付き合い方も不器用になっていて、何か技巧から入っていかなければいけないんじゃないかとみんな思い込んでいるんですよ。かといって、その訓練を受けているわけでもない。

だから、とりあえず1カ月でいいから優先席に座らないと決めて実行してみる。それから、1日に5回、どんなことでもいいから一歩下がって他人に譲ってみる。急いでいる人に「先にどうぞ」と言って道を譲るとか、とにかくまず行動を起こしてごらんと言いました。1日に5回だと1カ月間で150回、他人に譲る行動をとることになるわけです。そのときに、自分の気持ちの中に何が起きるかをノートにとることから始めていったらどうですか、と話をしました。何気ないことですが、若い人たちにとっての方法論としては、結構新鮮だったらしいんですよ。

心のスイッチを入れてあげる機会を増やしていかなければと思います。

【高野】その後、アドバイスを実践した一部の学生からレポートが来て「世の中の見方が変わりました」と言っていました。「人の気持ちを考えるってこういうことなんだなと考える習慣ができました」と。だから、大学生でも全然僕は心配していないんです。どこかでスイッチさえ入れてあげれば、みんな軌道修正を考えます。ただ、このスイッチを入れるタイミングと、スイッチの入れ方を伝える人がもっとたくさんいないといけない気がしました。

学生はやっぱり学生で、一部の人を除いては、実務社会の刺激の中で生きているわけではないので、自分で自分の心のスイッチを入れる仕組みを持っていない、あるいはそこまで考えていない人が多いです。だったら、少なくとも彼らよりは長い間生きてきて、そういう機会にたくさん恵まれた人間が、スイッチを入れてあげる機会を増やしていかなければと考えています。

さまざまな交流を通じて、「ちょっと後ろめたいけど、自分一人くらいなら、やってもいいだろう」から「いやいや、せめて自分一人ぐらいはやらないでおこう」と考えてくれるひとが確実に増えてきた。それを実感できることが僕の喜びでもあり、何かきっかけづくりになってくれればと思っていたのがそのとおりになってきたので、ありがたいなと思います。

さらに、将来そういう人がリッツ・カールトンに入ってきてくれるといいなということですよね。