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著名人インタビュー この人に聞きたい!
高野登さん[ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社 支社長]



第3章 ホスピタリティ業界が求めている「心の立ち位置」

5年後、10年後の企業の健康は、栄養素となる「人」の選択で決まります。

高野登/ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社 支社長

【高野】自分の健康を考えるとき、体内に入る食事や飲み物、サプリメントについて、それなりに時間をかけ、気をつかっていろいろ考えますね。企業も同じです。5年後、10年後も企業が健康体でいられるかどうか。一番大きな要素は「人」です。どういう人=栄養素がホテルに入ってくるかによって今後の健康が決まるのであれば、その人たちを選ぶときに時間をちゃんとかけなきゃいけない。

ザ・リッツ・カールトンの場合、「雇う」という言い方をしないで、必ず「選択」と呼びます。スタッフはホテルを選び、我々もスタッフを選ぶという相互選択なんです。1人のスタッフを選択するのに約5人が時間をかけて面接をします。じっくりと時間をかけてコンセンサスをとりながら選択をするシステムがあるんですね。

システムがちゃんとできていないと、見た目はいいけれども栄養がないスタッフを選んでしまうことも中にはあるわけですよ。だから、私たちはリッツ・カールトンの考え方をわかって、手をつないで一緒に歩き、走ってくれる人を選びたい。そのための仕組みをつくっています。この仕組みもまだ完璧ではないですが、少しでもいい人たちがリッツ・カールトンを選択してくれる確率を高くする仕組みを考えているわけです。

どういう人たちに入ってきてもらいたいか、ひとつの例を挙げましょう。

例えば、地下鉄の優先席だけが空いていたとき、「いいや、座っちゃえ」という人たちをグループA、「必要な人がいないようだから、とりあえず座ろう」という人たちをグループB、「ここは優先席だから立っていよう」という人たちをグループCとします。それぞれのグループの人たちが300人集まってホテルを運営するとしたら、それぞれが醸し出す組織としての温度が感覚的にわかりますよね。リッツ・カールトンは、グループCの感性を持った人や、それに近い感性の人たちを集めたい。それによって、ホテルの中で醸し出す雰囲気、お客様に伝わっていく温度は全然違ったものになるはずだと認識しているんです。だから、その仕組みをきちんとつくっておかなければいけない。ここが一番大きな部分です。

ホテル業界を志望し、未来の総支配人まで考えている人は、ホテルスクールやホテル学部のある大学で専門に学ぶ必要はあると思います。しかし、実際にホテルで働くときに重要となるホスピタリティの感性は、普段からの心の立ち位置の積み重ねで出来上がってくるもので、「さあホスピタリティの勉強をしましょう」「ドアマンのユニフォームを来て、ホスピタリティマン、ホスピタリティウーマンになりましょう」といって出来上がってくるものではないと我々は思うんですよね。

実は一番大事なのは、幼稚園のころからの家庭教育です。

【高野】今、問題だと思われるのは、そういう心の立ち位置を伝えるべき親が、何も考えずに優先席に座っちゃうことです。普通の席でも、子どもが座って暴れて、靴が隣の人の背広の膝にくっついても親は何も言わない。そういう子ども達が成長してホテル業界に入ってきたときに、果たしてどういう感性になっているのかなと。そういうものが最初から心にインプットされちゃっていることが、僕は結構大きな問題じゃないかなという気がするんです。だから、一番大事なのは、幼稚園のころからの家庭教育です。

リッツ・カールトン大阪には本当に気持ちのいいスタッフがたくさん働いていますよ。「きっと幼いころから、いい家庭環境で育ったんだろうな」と何となくわかるんですよね。必ずしも裕福な環境ということではなくて、靴を脱いだらきちんと揃えるとか、ご飯の時に「いただきます」「ごちそうさま」と言えるとか、普段からきちんとあいさつをする。そういう親の背中を見ながら育つ子どもたちが、ホスピタリティの一番の原点になると僕は思うんですよ。難しいことでも何でもないんです。普段から、どういう環境で子どもの心の立ち位置がはぐくまれてきたか。それだけのことですよね。子どもがいいホテルマンになれるかどうかは、家庭の中で、親がいいホテルマンのような考え方を持っていたかどうかですよ。

今は行儀作法も含めて学校に一任しちゃっているでしょう。家で子どもの素行が悪いと学校のせいにしてしまう。これは結構大きな問題じゃないかなという気がしますよね。

次回は、近年の学生たちの傾向や、仕事に「遊び心」を持つことの大切さなどについてお伺いします。