HOME > この人に聞きたい! > 高野登さん(ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社 支社長)
著名人インタビュー この人に聞きたい!
高野登さん[ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社 支社長]
[INDEX]
No.5(第1弾)
- 第1章 日本のホテル・観光業界は、これから一番面白い時期に入ります
- 第2章 ホテル業界の魅力とは
- 第3章 ホスピタリティ業界が求めている「心の立ち位置」
No.6(第2弾)
- 第4章 自分を出せない子どもたち
- 第5章 今、心が敏感な子どもたちのために
- 第6章 仕事に「遊び心」を持つことの大切さ
●第5章 今、心が敏感な子どもたちのために
体を使って刺激する。いつもと違ったスイッチを入れてやることも大事です。
【高野】13歳のハローワークの「何々が好き」というのは、僕はすごくいいと思うんです。何も好きなものが見つからないのは、まだ誰もスイッチを入れてあげていないだけのことですよね。缶蹴りでも、石蹴りゲームでも、あるいは川辺に行って水切りでも、一緒に遊ぶと結構子どもたちも引きこまれるし、みんな間違いなく変わりますよ。なぜかというと、体から刺激が入るからです。
年に2回ぐらい、あるボランティアで子どもたちを連れて信州に行くことがあるんです。僕も根っからの山育ちですから、カブトムシのいる場所は匂いでわかります。あたりをつけて子どもたちに探させると、子どもたちは、石で足を擦りむきながら、でこぼこの山道をバランスをとりながら走り回る。すると、体から頭の中に違った刺激が入ってきます。これはコンピューターゲームとは全然違う刺激です。この体感する刺激が、頭と心にとって非常にいいんだろうなと思いますね。
今度、本物の稲穂を見たことがない都会育ちの子どもたちのために、田植えから稲刈りまでの全行程をずっとシリーズで連れていこうかな、タニシやミミズと泥まみれになりながら何かやらせてみようかなと、いろいろ考えているんです。
それも自分の無意識なホスピタリティマインドなのかもしれませんが、何か考えるきっかけを与えてあげるのはいいかなと思います。「実際に体験してみて、自分の心に中で何が起きたのかを、1つだけかいてごらん」と言うと、僕らがびっくりするような感想が出てきますよね。それがやっぱり楽しい。この子はこう刺激を与えれば違ったスイッチが入るだろうなというのが見えてくる。体験から来る心理学みたいなものかもしれません。何となくわかるところがありますよね。「この人は、こう言うと、きっとこうなるだろうな」と。
ひと括りに「ニート」という現象で捉えてしまっていいんでしょうか。
【高野】僕が解決できるレベルの問題ではないんですが、ニートについては、もう少し本当の理由を押さえていかないとまずいんじゃないかなと思うんですね。社会現象として表に出てきている数字や状況は何となくわかっているんですが、僕自身、現状を把握し切れていないところがあるんです。ひょっとしたら一番心が敏感な人たちなのかもしれないし、何かですごく傷ついた経験から、どうしても次のエンジンがかからないところまで行っちゃった人なのかもしれない。あるいは、人との付き合い方が不器用なだけに、社会的な責任を持たされる場所に出ていくことへの恐れがあるのかもしれない。そうすることによって生まれる痛みを自分の中で処理できない恐れを抱えているから社会に出ない選択をするのかもしれない。しかし、そうではない、単に怠け者のニートがいるのかもしれない。それと一緒に考えてしまうと、またここで解決策が間違ってしまう。
だから、10人いたら10人ともニートという括りで本当にまとめていいのかなとなると、ちょっと怖い。本当は一人一人と向き合わなくてはならないのに、「ニート現象」と捉えて、違うケアが必要な人たちまで同じレッテルで扱ってしまっているのかもしれません。
表に出てこない人たちは、僕はやっぱりかわいそうだなと思うんですよね。生まれて死ぬまで、人と関わり合いがなくて生きていけるわけがありません。人と接することによってしか生まれてこない喜びや楽しみがいっぱいあるわけで、その喜びを自分で摘み取っているわけでしょう。だから、違う喜びもあるよと何とか伝えたいというのはありますよね。これは大学に入ってからそうなったのか、あるいはずっと前からそういう要素があったのか。どのレベルの解決からスタートしたらいいかが難しいです。
子どもの心にあらわれる社会の問題は、根が深いんじゃないかと思います。
【高野】また、ニートと呼ばれる子どもたちは、親が自信喪失している世代の子どもたちなのかもしれないですよね。親が本当に仕事を楽しそうにしていたかどうかも大きい要素だと思うんです。お金があるなしにかかわらず、両親が楽しそうに生きているかどうかということですよ。両親の仲が良い家庭、仕事をして汗だくになって、本当にしんどそうなんだけれど、お風呂からあがると、美味しそうにビールを飲みながら「今日もこんなことがあって」と楽しそうに話している家庭、そこには、子どもがニートになる要素がそんなにないと思うんです。会社の仕組みや社会のゆがみを苦しそうに抱えて帰ってきて、子どもときちんと向き合った話もできなかったりする。それでは、子どもたちに社会に出ることや仕事をする楽しみ、仕事について考える機会をその時点で摘んじゃっていますよね。
だから、もっと僕は根っこが深いんじゃないかと思うんですよ。そういうものをずっと放置しておいて、今になって出てきた社会現象に対して「ニート」とレッテルをぽんと張って「彼らはだめだ」と。そうじゃないだろう、と僕は思うんです。今の政治家にしても、そうそうたるブランドを持つ企業にしても、平気でうそをつき、平気でブランドを裏切ることをし、挙げ句の果てにはテレビの前で頭を何回も下げて終わり。こういう世の中を見ていると、繊細な子どもであればあるほど「なんだ、こんな社会に関わりたくない」と思ってしまう。それも、まんざら理解できないわけではないんですよね。
- No.39 大九明子さん
- No.38 はまのゆかさん
- No.37 樋口弘光さん
- No.35 小松亮太さん
- No.34 おかひできさん
- No.33 桐谷美玲さん
- No.32 萩原浩一さん
- No.31 漆紫穂子さん
- No.30 柿沢安耶さん
- No.29 中村憲剛さん
- No.28 平澤隆司さん
- No.27 田川博己さん
- No.26 笹森通彰さん
- No.25 野口健さん
- No.24 中田久美さん
- No.23 ルー大柴さん
- No.22 松本素生さん
- No.21 田原総一朗さん
- No.20 野口聡一さん
- No.19 三枝成彰さん
- No.18 渡邉美樹さん(2)
- No.17 伊達公子さん
- No.16 佐藤可士和さん
- No.15 渡邉美樹さん(1)
- No.14 中田宏さん
- No.13 蓮舫さん
- No.12 竹中平蔵さん
- No.11 前原誠司さん
- No.9・10 渡邊雄一郎さん
- No.7・8 冨田勲さん
- No.5・6 高野登さん
- No.3・4 乙武洋匡さん
- No.1・2 藤原和博さん