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著名人インタビュー この人に聞きたい!
漆紫穂子さん[校長]



第3章 高校時代は、あらゆる角度から自分がどの科目が向いているか検証。「好き」と「得意」が一致した国語教師を選択。

――先ほど、小中学生までは勉強であまり不自由しなかったとお話がありましたが、高校生になってからは?

インタビュー写真:漆紫穂子

【漆】高校に入ると、勉強に対するモチベーションが急に落ちました。というのも、それまでは使命感で勉強していたことに気が付いたのです。皆が黙っていたら私が発言しなきゃ先生が困るとか。高校に入ると、私が責任感を抱くまでもなく、周りの皆の方がずっと勉強ができたので、気が抜けたのかもしれません。むしろ何でみんなはすぐに理解できるんだろうと劣等感を感じることもありました。テストを受けるのがつらい教科もありましたね。

だけど、国語は相変わらず好きでした。古文や漢文が加わり、語源や古典思想の世界に興味を持つようになりました。特に興味をひかれたのが人間の本質です。人間が時代や国をこえて普遍的に持つ感情と、生まれ育った環境ですりこまれた倫理観との境目がどこにあるのか興味関心を抱くようになりました。一夫多妻制なのに嫉妬はあるんだなとか。そんなことから、教師になって国語の奥行きを伝えたいと考えるようになりました。その一方で、研究者という道もあるのかなと思ったこともあります。

英語は、高1の時に初めてイギリスにホームステイをさせてもらって、初めて人にものを伝えるための手段だということに気がつきました。それまでは、テストで点を取るためのものという位置づけでしたので、単語を覚えても、試験が終われば忘れていたのですが、この単語を使ってどう話そうとコミュニケーションしているシーンをイメージしながら練習すると、おどろくほど定着するようになったのです。まさに目からウロコが落ちた体験で、勉強時間はまったく変わってないのに、英語の成績が急上昇しました。その時、英語教師になるのであれば、コミュニケーションする楽しさを教えたいと思いましたね。また、英語は国際化が進む中、スキルを生かせる職業も増えてきていましたから、教師以外の仕事でも、やってみたい気持ちはありました。

――最終的に国語の先生になろうと決めた理由は?

【漆】「好き」と「できる」が一致していたからです。でも、最後の最後まで、ものすごく迷いましたね。国語と英語の他に、理科と食物も好きだったからです。もともと、女子栄養大学の香川先生という方にとても憧れていて、食品分析表を持ち歩くほど栄養学が好きで、受験体制に入る高3になっても食の授業を週に4単位も取っていたほどです。ところが、栄養学は理系で、私は数学が大の苦手だったのです。さらに、家庭科では被服も教えなければならないのですが、その被服もものすごく苦手でした。そのため、家庭科教師という選択肢は能力的に消えました。

理科教師という選択肢も、数学が苦手だったし、物理も得意ではなく、受験には理科2科目が必要なことが大きな壁となりました。それで、これも能力的に消えました。

体育も好きでしたが、身体能力が自分より悠に優れた人たちの中で努力だけでやっていくのは、やはり厳しいかなと。

それで、特に好きな英語か国語かということになったのですが、その時父がこんなことを言ったのです。「英語は、どんなに頑張ってもアメリカ人に負けるぞ」と。冷静に考えると、私は日本語のベースがあって英語をやるわけだから、負けるとかそういう問題ではなかったのですが、その時は、負けず嫌いの性格から、最初から負ける勝負はしたくないと思い、英語教師はあきらめました。

結果、国語は大好きだったので、楽しみながら深く勉強していけると思ったのですね。生徒にその喜びを伝えたいという思いもありました。今も生徒に「好き」と「できる」が仕事選びには大事だと話しているのですが、まさに国語ではその2つが一致していたのです。

――他の職種と迷ったということはありませんでしたか?

【漆】ありました。高校時代は将来についてあれこれと考える時期ですから、周りの声にも敏感になります。そんな中、「親のしいたレールの上を歩くなんて」という言葉が耳に入ってきたんですね。それを聞き、「私ってそれ?」「そんなの良くないのではないか」と不安になったことがあります。それで、他にどんな仕事があるんだろうと思い、調べたのです。友達にお父さんの仕事を聞いてみたり、「○○が好き」からどんな仕事があるだろうとイメージを膨らませてみたり。そうやって調べてみたのですが、どの職種もワクワク感が湧いてきませんでした。

一方、先生になった自分を想像すると、すぐにワクワクするんです。友達みたいな先生はいいのか悪いのかとか、夏には海の引率があるかもしれないから救助の資格を取っておこうかなとか、海外引率もあるかもしれないから英会話くらいできなきゃとか、教師になった自分の姿が浮かんできて想像がんどんふくらんでいくんですね(笑)。これが自分の心の声で、他の職種と違うのではないかと感じ、やっぱり私は教師になりたいんだと確信したのです。