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著名人インタビュー この人に聞きたい!
中田宏さん[政治家・横浜市長]



第4章 行政としてできる職業観教育

問題意識にすごくピンポイントでこたえてくれたのが『13歳のハローワーク』だった。

――横浜市でも教育改革が一つのテーマに挙げられていますが、中高生が将来や仕事を考える上での職業観教育というものが、今まで十分ではなかった気がしています。その国政で足りない部分をこういう民間のビジネスでできないかという思いもあって、私もサイトをやっているところがあるんです。

【中田】参考になるかどうかわかりませんけれども、僕の著書で講談社から出ている『なせば成る 偏差値38からの挑戦』という本があるんですが、そこで僕は、世の中は広くて、みんなが知っている仕事ばかりじゃないよということを書いています。

テレビに映し出される職業はドラマになりやすいものばかりだけれども、大多数の人は違うところで日本経済の基盤を支えているんです。NHKの「プロジェクトX」も、あの番組で取り上げられなければ無名の仕事だったものもあると思います。しかし、「プロジェクトX」に取り上げられない仕事もたくさんある。八百屋、魚屋、大工、清掃、金型製造、板金、左官、港湾労働、部品製造、印刷工……ほかにもあるんだけれども、挙げればきりがない。そこにもみんなおもしろさがあるし、仕事としてのやりがいがあるのに、我々の社会は限られた情報しか見ていないんだ、という話を若者向けに書いたんです。

それの集大成が『13歳のハローワーク』だと思うんですよね。私の問題意識にすごくピンポイントでこたえてくれたのがこの本だったから、これはいま、ほんとうにいいなと思っているんですね。

できる限りいろんな仕事を見たり体験したりする。そのことで他のことに対する洞察力もやがて出てくる。

――地方行政の中で、子どもたちの教育、特に職業観を前向きにとらえるような教育というものに対して、中田市長はどのようなお考えやご意見をお持ちですか。

中田宏/政治家・横浜市長と編集長

【中田】そうですね、前置きだけ一応しておきますが、教育については基本的には教育委員会が責任を持つという推進体制になっています。私の知り得る限り、現在における横浜市の教育現場における取り組み、あるいは私の個人の考え方を言うならば、まず職業体験であるとか、社会を見る機会を小学生、中学生といったそれぞれの段階において増やしていくことを意識していますね。

国語も算数も理科も社会も大切ですが、世の中は広いし、この『13歳のハローワーク』で取り上げられている職業だっていっぱいありますよね。全部見ることはもちろん無理です。無理なんですが、できる限り見たり体験したりすることによって、そのほかのことに対する洞察力もやがて出てくる。今までの関心とは違った興味が出てくることもあります。例えば商店街のお店で働くという体験ができるよう、商店街との協力も横浜市の教育現場などでは意識していますね。

また、行政としても、子どもたちが市役所を見にくる機会を設けることによって、市役所の仕事や現場を知ることになるわけですね。例えば下水道で自分たちが使ったお風呂の水、台所の水、トイレの水が処理されていく、そういう行程を見る機会を夏休みにつくる。そうすると親子で来て、子どもたちが「ああ、こうやって水って浄化されていくんだ」とわかれば、それは新しい発見だと思うんですね。下水道の現場で、科学的に技術として取り組んでいる人たちがいるんだなということにもイマジネーションが働く。そうなると、今度は仕事として化学メーカーとか、製薬関係とか、いろいろなところにまでだんだん話が広がるんですね。そういう子どもたちの関心が広がるような機会をつくることは私たちも行なっていますし、青年会議所やNPOなど民間でもいろいろ行なわれていますね。