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著名人インタビュー この人に聞きたい!
藤原和博さん[杉並区立和田中中学校校長]

写真:藤原和博さん

1955年生まれ。78年東京大学経済学部卒業後(株)リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、ヨーロッパ駐在、同社フェローなどを経て、02年からビジネスマンと兼務で杉並区教育委員会・参与を勤める。小中学校での教育改革にかかわり、自ら開発した[よのなか科]の実践が話題となり、03年4月から杉並区立和田中学校校長に就任。都内では義務教育分野で初の民間人中学校長。


第1弾では、人生と「仕事」について、キャリア重視に潜む「罠」、さらに、子どもたちを将来フリーターやニートにさせないためには、についてお話を伺いました。
今回はその続編です。子どもと一緒に「仕事」の世界をみる際の視点と、その視野の基礎となる「学力」について、藤原先生に熱く語っていただきました。



第4章 「仕事」をみるための視点(1) ~見える価値、見えない価値~

「年収が高いといっても、時給換算することはすごく大事なんですね。」

藤原和博/杉並区立和田中中学校校長

【藤原】「仕事」を眺める際の視点について、幾つかお話ししたいと思います。

1つ目は年収と時給の関係です。以前「週刊ダイヤモンド」(*) に、職業別年収の面白いランキングが載っていたので、ポイントを絞って順番にご紹介しましょう。

まず、トップはACCESS(アクセス)という会社の創業者、荒川亨氏で、携帯電話用の閲覧サイトなどで有名な起業家ですが、推定年収約15億円です。小中学生向けに言い換えれば、マクドナルドの10店分の年商がガーンと入る。すごいでしょう。でも、それは借金を数十億円背負う覚悟で商売をした結果、勝った人が得る年収です。楽天の三木谷社長も1億数千万円ですね。あとはサッカーの楢崎選手が1億円ぐらいかと言われていますが、起業家か、多くの人をエンターテインメントできる人が年収1億円クラスの条件かなと感じます。

その次に、医者や弁護士などで大成功した人や、トップレベルの企業の社長の年収が5,000~6,000万円です。総理大臣の小泉さんもこのクラスに入ります。そうでなくては、あれだけ日本の国のことを始終考えて、プライベートがほとんどない仕事は胸を張ってできない。4,000~5,000万円をもらって当然だと思います。次が公務員やサラリーマンで500~1,500万円かなと思うんですね。学校の先生はどうかというと、40歳代で約800万円代が約束されます。

一方、いわゆる「手に職」の仕事を見ますと、例えば小中高校生におなじみの美容師について言えば年収は200万円~2000万円と、ピンキリですね。カリスマ美容師になれば2,000万円以上もあるかなと思います。サラリーマンや公務員が500~1,000万円の幅があるのに対し、手に職を持つ人は100万~1億円と振り幅が激しい。実際は、その真ん中あたりの200~2,000万が非常に多いと思います。

ここで、年収を稼ぐのに自分の時間をどれぐらい投与しているかという考え方が生まれてきます。例えば年収5,000万円でも、5,000時間働けば時給1万円です。時給1万円の植木職人や大工さんはいっぱいいますし、7~8万円取るコンサルタントもいます。それなのに、小泉首相だって、プライベートがないほど仕事をやっていれば時給8,000円になっちゃいます。このように年収から離れ、時給で見たときにも自分にとって「幸福な仕事」と思えるかどうか。例えば公務員は部課長クラスでも時給6,000円ぐらいなのに、東大を目指す人たちを教える家庭教師は、成功報酬も含めると時給1万円ぐらい取る人もいる。視点を変えれば、「なんだ、そっちのほうが効率がいいじゃない」という考え方もできていくわけです。

「見えないバリューをどれだけ大事にするのか。これも大事な軸になってきます。」

【藤原】もう一つ、仕事から得られる報酬は、お金だけじゃないという視点があります。

例えば、アルバイトをして稼ぎながら発展途上国に50~500万円で学校をつくる人がいます。それで尊敬されることがその人の軸になるのであれば年収なんか関係なくなります。また例えば、税理士の中には、年収200~300万円だけれども、家族の近くで地元の企業や商店の仕事をすることで、地域に根差してハッピーな人もいるんじゃないかと思うんです。「経済的価値以外のものをどれぐらい大切にするか」も仕事をみる上で大事な軸になってきます。

この見えないバリューには、例えば組織を辞めた後の保障も含まれます。自分の実力かどうかは別として、「トヨタの社員」は確かに1つのクレジット(信用)をもち、後々の保障が厚いというのはあるでしょう。そこまで考え及んでいって、保障を大事だと思う人たちにとっては、公務員やサラリーマンがいいという話になります。また逆に、「バンドさえできれば嬉しい、ボーカルを歌っていれば幸せ」というフリーターは、今はいいけれども60歳でもそうしているのか。フリーターやニートという人たちが弱いのは、そういう後々の保障という視点からみた場合にどうなのかということになるわけです。

(*)参考:週刊ダイヤモンド(05年6月18日号)/ダイヤモンド社