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著名人インタビュー この人に聞きたい!
藤原和博さん[杉並区立和田中中学校校長]



第2章 キャリア重視に潜む「罠」

「正解の会社なんてないわけです。仕事自体を自分がクリエイトしていかないと。」

藤原和博/杉並区立和田中中学校校長

【藤原】「キャリア」を考える際の2つの落とし穴を指摘したいと思います。

1つは、日本の教育システムが正解主義で来ていること。小中高の9割方は正解を記憶に叩き込む授業です。そういう教育をずっと受けていると、大学でもすべての問題に正解があると思ってしまうわけです。就職の際も適職診断テストに頼って「分析していけば、自分にとって正解の会社が絶対にある」と思うのは大間違いで、選んだ会社や仕事が正解かどうかは、5年、10年して初めてわかるものです。卒業前にもらった3社の内定のうち「どれが自分に一番合っていますか」の答えはありません。それではエルメス、グッチ、ヴィトンとデパートに並んでいる完成品のバッグの中から、「2万円持っているから、どれを買おうかな」という選択とまるで同じです。そういうものじゃないですね。会社もどんどん変化するし、仕事自体を自分がクリエイトしていくことがすごく大事です。どれを選んでも5年10年かかって正解にする。そこで最低でも5年積んだ経験が先々の大事な基礎になります。自分に向いたキャリアの絶対的正解は、最初から「ない」と強調したいと思います。

「適当な無謀さで、まずやってみる。「試行錯誤する勇気」みたいなものが大事です。」

藤原和博/杉並区立和田中中学校校長

【藤原】もう一つ、ゴルフに例えてみましょう。

例えばパー3、100mのホールがあります。ティーグラウンドに立ち、クラブを手にとり、アドレス中にいつまでもボールを見て、どうやったら一発で入るかをずっと分析している人がいます。素振りをしてみたり、「ちょっと違うかな」とクラブを替えてみたり、よせばいいのに指をなめて風向きを調べたり。風向きなんて打った瞬間に変わる可能性があるわけですよ。

ホールインワンなんて、プロが入れてもお祭り騒ぎです。毎回ショートホールを1回で入れる機械を開発するには、NASAだって100年かかるでしょう。そういう確率なのに、素振りを繰り返すばかりで、なかなか打てない。そういう人が世の中にいっぱいいるんです。

子どもは、ためらうことなくさっさと打って、何度も打ちながら試行錯誤するうちに、勘が出来てきます。ものの10分でカップに入れて、次のホールに行くかもしれない。子どもでも20打ぐらいで入ると思うんです。

今はものすごく変化が激しくて、グリーンに切った穴すら打った瞬間にどんどん移動していく社会ですから、打ちながら、試行錯誤の中で学んでいくほうが絶対に強い。しかも、このホールだけで決まるわけではなく、勝負は延々と続きます。どんどん打ったほうが、一発で入れようとうんうん唸って30分打てない人よりも強いわけですね。この「試行錯誤する勇気」みたいなものがすごく大事です。

特に最初のキャリアを選ぶときは、あまりに慎重になり、分析しすぎることがありますね。それよりは、子どものときの「適当な無謀さ」を思い出して、まずやってみましょう。そして、20代後半から30代の5年ぐらいで、先ほどのクレジット(信用)を蓄積すれば、将来が強いと思うんです。まず打ち出す無謀さや勇気がないと、「キャリア」と言うあまりに隘路や罠にはまっていくので、すごく大事なことだと思います。