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著名人インタビュー この人に聞きたい!
藤原和博さん[杉並区立和田中中学校校長]



第5章 「仕事」をみるための視点(2) ~何と何の間で仕事をしていくか~

「人・物・お金・情報、いったい自分は何と関わって仕事をしていくのか。」

【藤原】例えば私がいたリクルート社は、基本的には人と人のニーズをつなげる仕事です。それに対し、例えば野村證券は、基本的にはお金の間でそれを扱う技術で自分のクレジットを高めていくんですね。それから、メーカーや流通業のように、物に関わって仕事をしていく職業もあります。家電メーカーで冷蔵庫を徹底的に開発する、TOTOでウォシュレットを極限まで便利にする、その専門家として20年、30年やれば、物に関わる技術でクレジットを高められます。あるいは、例えば日本IBMは情報と情報の受け渡しが強いと思うんです。

自分がずっと関わりたいのは、人か、お金か、情報か、特定の物か。そういう大ざっぱな分け方も、成熟社会の仕事選びであるかなという気がするわけです。

「周りにどれだけの職業をイメージできるか。その力はすごく大事なんですね。」

藤原和博/杉並区立和田中中学校校長

【藤原】次の視点です。皆さんは職業の名前をどれぐらい知っているでしょうか。サッカーが好きで中田選手のようになりたいと願う。そこだけにとらわれると、職業の世界は広がっていきません。どんな人たちが中田選手を周りで支えているのでしょう。スポーツ用品メーカーがあります。その商品の流通を扱う会社があり、小売りをする会社もあります。グラウンドコンディションを整えるグリーンキーパーもいれば、もちろん監督もいますし、チームのオーナーは企業の経営者だったりします。

小学生のころは、お父さんがパン屋さんであれば「パン屋になりたい」と、見えている1点だけを将来像だと思ってしまうんですね。でも「ビートたけしさんに憧れたから、とにかくお笑い芸人になる」では、本人の可能性を非常に狭めてしまいます。彼が出版する本の編集者やテレビのフロアディレクターといった、その仕事の周りや背後にまでイマジネーションが湧くといいと思います。

そのために、トップアスリート社が総力を挙げて開発をし、村上龍さんと幻冬舎が監修、私が企画協力をした「13歳のハローワークマップ」があります。これは『13歳のハローワーク』の514の職業を星座のように配置している職業地図なのです。

「このマップは、仕事をクリエイトし、想像力をかき立てるベースに使ってくれるといいと思います。」

【藤原】このマップは、勉強部屋やトイレなど、何となく目にするところに漢字表のように張って、職業の世界観を醸成したらいいんじゃないかなと思います。ぼーっと見て、舞台音楽の近くには衣装や、作家、ヘアメイクアーティストまで出てくる。そこにどんな関連性があるかをぜひ自分で想像してもらったらいいですね。

例えば、我々の世代は床屋とパーマ屋だけだったのに、今はネイルアーティストのサロンができて、場所によってはマッサージやアロマセラピーまで受けられる総合的な癒し産業になっています。これは20年前には考えられなかったことです。ですから、ここにある仕事に必ず就かなきゃいけないという話ではありません。与えられた「正解主義」で仕事を選ぶのではなく、続々と仕事をクリエイトする余地があるし、それが世界的に広がる可能性が十分あるんじゃないかなと思うんです。

癒し産業での例をもう少し言えば、例えば動物好きならアニマルセラピスト。動物との触れ合いが、特別養護老人ホームにいる人たちの認知症予防に効果を発揮することがあるでしょう。そんなふうに、隣り合う職業を眺めて「これとこれにはこんな関係性があるじゃん」「これとこれを組み合わせればこんな仕事があるじゃん」、そういう想像力をかき立てるベースに「13歳のハローワークマップ」を使ってくれるといいんじゃないでしょうか。