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著名人インタビュー この人に聞きたい!
おかひできさん[映画監督]



第4章 多くの人に喜んでもらえる仕事であることが、僕には向いているし、楽しい。

スターウォーズとの出会いから約20年。気が付けば、特撮の世界に。

――ウルトラマンとの出会いは、どのようなきっかけだったのですか?

【おか】カチンコを打っているときに、東宝でゴジラの特撮の現場につく機会がありました。そこで出会った先輩の助監督さんに誘っていただき、円谷プロダクションでウルトラマンの仕事をさせていただくようになりました。

僕はスタートが遅れていたので、とにかく一日でも早く人並みに仕事ができる職能人になることを最優先に考えていました。だから、作品の種類にはこだわらずにやってきたつもりでしたが、図らずもゴジラの現場にいき、さらにウルトラマンとも縁ができてしまった。いつの間にか、少年時代に想い描いていた特撮の世界にたどりついているなんて、改めて不思議だなと思います。

――映画『ウルトラマンサーガ』は、どのような工程で撮影されたのですか?

【おか】特撮を撮るグループと、人間のお芝居を撮るグループに分かれての並行作業でした。僕は人間のお芝居を担当し、もう一方の特撮は、特技監督の三池敏夫さんが担当されました。このように、1本の映画を並行して撮るときは、監督同士の意思の疎通がしっかりできていないと、できあがる映画が、木に竹を接いだような代物になってします。今回は、そこが円滑に運んだので、いいものができたと感じています。

事前の準備は入念に行いましたが、当然、撮影している過程でアクシデントが起こったり、想定していた通りにならなかったりということがあります。そのようなとき、それを特撮チームに伝え、すり合わせをしますが、今回は編集や合成の段階で微調整をする程度で済みました。

2011年(45歳) 映画『ウルトラマンサーガ』の撮影現場。演技指導するおか監督。<2011年(45歳) 映画『ウルトラマンサーガ』の撮影現場。演技指導するおか監督。>
2011年(45歳) 映画『ウルトラマンサーガ』の撮影現場。綿密な打ち合わせをして、1つひとつのシーンを丁寧につくり込む。<2011年(45歳) 映画『ウルトラマンサーガ』の撮影現場。綿密な打ち合わせをして、1つひとつのシーンを丁寧につくり込む。>

――役者の動きやCGの効果は、どの程度までイメージしているのですか?

【おか】ゼットンのテレポーテーションを例にお話ししましょう。ぼくも三池さんも監督ですから具体的なイメージは常に持っています。でも、ある時それを一回捨ててみるんです。そのうえで、経験豊富なあらゆる立場のスタッフにアイデアを出してもらいます。そのやり取りを何度か繰り返しているうちにブラッシュアップされ、完成度が高くなるんです。

絶対にブレてはいけない基本的な流れをしっかり押さえておけば、あとは現場にいる大勢の人間のアイデアが肉付けされていって、最後の最後にまた監督の手に帰ってくる。そこで、また微調整をして映画が完成するんですね。

2011年(45歳) 映画『ウルトラマンサーガ』の撮影現場。真剣な表情に、作品へのこだわりが垣間見える。<2011年(45歳) 映画『ウルトラマンサーガ』の撮影現場。真剣な表情に、作品へのこだわりが垣間見える。>
2011年(45歳) 映画『ウルトラマンサーガ』の撮影現場。1人ひとりのアイデアが、作品の完成度を高める。<2011年(45歳) 映画『ウルトラマンサーガ』の撮影現場。1人ひとりのアイデアが、作品の完成度を高める。>

泥まみれになりながらでも、やり続ける。その先にしか、道はない。

――完成度の高い作品をつくるために、意識していることはありますか?

インタビュー写真:おかひでき

【おか】年月を経るごとに感じるのは、自分だけでは何もできないなということ。だからでしょうか。いま一緒に仕事に携わっている人の良い部分を信じる心がどんどん強くなっています。悪い部分は誰でも持っているので、そこは気にしないようにし、いつも相手の良い部分だけを見ていたいですね。苦手なタイプの人でも絶対に拒絶からは入らない。そうして価値観の異なった人と人が結びついたとき作品は厚みを増すんだと思います。

また、今はインターネットがあり、効率的にさまざまな情報を入手することができます。でもそこで止まってはいけない。情報はあくまで足掛かり。そこに実体験をリンクさせることがオリジナリティにつながるんだと思います。

――このお仕事をやっていて楽しいところを教えてください。

【おか】ひとつは、たくさんの人と一緒に仕事ができることです。みんなで知恵を出し合うことで、思いもよらない素晴らしい表現ができるからです。だから、いつもワクワクしながら撮影に臨んでいます。

また、これは感覚的なことですが、台本をつくっている初期の段階で、「あっ、いま映画が生まれた」と確信できる瞬間があるんです。目には見えないけれど、あとはみんなで引きずり出すだけだと確信する瞬間があるんですね。そうして、現場の苦労があり、編集を経て、ひとつの宇宙が生まれる。この過程が楽しいですね。

そしてもう一つは、自分たちの作ったものを、お客さんが受け入れてくれることです。僕らがどのような想いを込めてつくっても、誰にも観てもらえなかったら、それは映画ではなく、フィルムというただの物体でしかない。お客さんが観てくれて、心に何かが残ってはじめて、映画になったと言えるんです。

最近は、twitterやブログに記されたお客さんのナマの感想を見聞きできる機会がとても増えています。自分がやっている事の行きつく先に人がいて、多くの人に喜んでいただいていると感じながらできる仕事であることが、僕には向いているし、楽しいです。

――今後のビジョンを教えてください。

【おか】僕は、今まで、行き当たりばったりでやってきました。遠い遠い未来のビジョンを持ったことがありません。これまでの人生経験から、策を弄しすぎなくても、その都度、目の前のことをしっかりとやっていけば、きっといつかいいことがあるという確信めいた想いがあります。だから、これから先も、ボールが飛んできたらその都度全力でバットを振るだけです。

――中高生に、メッセージ―をお願いします。

インタビュー写真:おかひでき

【おか】一瞬だけ、好きなことを仕事にするのは、たやすいことです。大変なのは、それをやり続けること。自分の努力はもちろん、周囲に理解してもらうことも必要です。その上で、自分を信じてやり続けていれば、ある日突然、道が開けます。そこまで行くには、その場その場で、どれだけ一生懸命やり続けられるか、それしかありません。先々のことばかり計算しながらやるのではなく、今の瞬間を泥まみれになってやっているか、人はそこを見ています。それを積み重ねた先にしか、次はないんです。すべての人に当てはまることかはわかりませんが、自分の人生を振り返ったら、そういう言葉しかぼくには言えない。がんばってください。