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著名人インタビュー この人に聞きたい!
柿沢安耶さん[野菜パティシエ]
[INDEX]
- 第1章 豚と一緒に暮らすことが夢だった。それが、仕事探しの原点。
- 第2章 食べて健康になる食事法と出会い、「これだ!」と直感。
- 第3章 野菜スイーツの魅力を生かしながら、多くの人に食の大切さを伝えていきたい。
- 第4章 製菓業界ハローワークマップ ポタジエ編
●第3章 野菜スイーツの魅力を生かしながら、多くの人に食の大切さを伝えていきたい。
常連客からの依頼で手掛けた野菜スイーツが大好評。レシピ開発を本格的に始める。
――自分のお店を持ったときの気持ちは、どうでしたか?また、野菜スイーツは、この頃から作っていたのですか?
【柿沢】開店当初は、自分のお店にお客様が来てくれるのが純粋に嬉しかったですね。「美味しかった」と言ってもらえたり、また来店してくれたりするのも嬉しかったです。皆さんいい方ばかりで、口コミでお店を広めてくれたり、「ここ美味しいんだよ」と友達を連れて来てくれたりして、とてもありがたかったです。
この頃すでに、カボチャやサツマイモでケーキを作っていたのですが、ニンジンなど美味しい野菜が届くのを見て、これでケーキをヘルシーにできないかと思うようになりました。そんなある日、常連のお客さんから「彼女の誕生日に、ビックリするようなケーキを作って欲しい」と頼まれたんです。そのリクエストにお応えするために作ったのが、小松菜を練り込んだスポンジ生地のケーキでした。これを食べたお客様はビックリすると同時に、「美味しい」ととても喜んでくれました。野菜がケーキになる驚きと楽しさが受けたんでしょうね。以来、ルバーブやサトイモ、ヤーコンなどさまざまな野菜でケーキを作るようになりました。
イヌイは9割が女性のお客様で、一般的なチーズケーキなども出していましたが、野菜のケーキはとても評判がよかったんです。それを見て、「野菜ケーキのお店っていいかもしれない」と可能性を感じるようになりました。ちなみに、小松菜を練り込んだスポンジ生地は、ポタジエの定番グリーンショート・トマトに引き継がれているんですよ。
――野菜スイーツ専門店をオープンしようと思ったきっかけは何ですか?
【柿沢】一つは、お店で出していた野菜のケーキが予想以上に評判がよかったことがあります。さらに、食育セミナーをはじめたのもきっかけの一つです。
私自身、お店をオープンするときに仕入れ先となる農家さんに交渉に行くまで、畑に足を踏み入れたことがありませんでした。実際に畑を見たとき、「野菜ができているところって、命ができるところなんだ」とものすごく感動したんです。現場を見て農家さんの苦労を知ったことで、自分の料理にも影響がありました。いびつな形でもそのまま生かそうとか、皮ごと全部食べようとか、葉っぱも使ってあげようとか。同じ畑でできた野菜は相性がいいことも分かるなど、それまで考えてもみなかった発見もありました。
この経験から、畑でもらった感動をもっと多くの方に知ってもらいたいと思うようになりました。それで、食育セミナーをはじめたんです。内容は、お客様と畑に行って農作業をしたり、あるいは農家さんに私のお店に来ていただいて、どういう想いでその野菜を作り始めたとか、大変さ楽しさなどを語っていただいたり、その時々に応じて考えました。
このような活動をやっている中で、都会に住んでいる人にこそ有機野菜の素晴らしさを知ってもらいたいと思うようになったのです。こうして、2006年、野菜スイーツ専門店「ポタジエ」をオープンしました。
野菜ケーキの可能性と、有機野菜への想いが相まって、野菜スイーツ専門店「ポタジエ」オープン。
――オープン直後から大反響となりましたね。その中で、嬉しかったことは?
【柿沢】ターゲットは若い女性でしたが、いざオープンしてみると年齢性別問わず幅広い方々から野菜スイーツに興味を持っていただきました。マスコミに取り上げていただいたこともあり、滑り出しから順調で、多くの方から、美味しい、楽しいといった声をいただきました。特に、「野菜にこんな可能性があるんだ」「こんなケーキが食べたかった」「ヘルシーなケーキが欲しかった」と言っていただけたのは、嬉しかったですね。
まったく予想していなかったのが、野菜が苦手な人がポタジエのケーキを「美味しい」と言って食べてくれたことでした。トマト嫌いの人がトマトのショートケーキを、青菜嫌いの人が青菜のケーキを、ニンジン嫌いの人がニンジンのケーキを「食べられる」と言うんです。すごく嬉しかったですね。嫌いな野菜が入ったケーキを子どもが食べたと、お母さんから喜びの声をいただいたこともあります。
――一般的なケーキと比べて、野菜ケーキをつくる難しさとは?
【柿沢】一番大変なのは、レシピ開発ですね。味、歯ごたえ、色など、野菜の特徴をどのように生かしてケーキにしていくかというのは、いつも試行錯誤の連続です。たとえば、サツマイモやカボチャのように、ケーキにしやすい素材もあれば、そうでないものもあります。そうでないものは、チーズやチョコレート、果物と合わせることで、食べやすくします。
野菜は生鮮食品なので、鮮度はもちろん、季節によって味や水分量が違うので、そこにも気をつかいますね。なるべく旬の野菜をそのままの食べていただきたいので、季節でケーキの味が変わってもいいと思っており、極力手を加えないようにしています。でも、ケーキの質を保つために、場合によっては煮詰める時間やゆでる時間が変えて、水分や甘みを調整することもありますね。
夢を実現する秘訣は、「一生懸命やること」「絶対にあきらめないこと」。
――今後、野菜スイーツにどんなことを期待していますか?
【柿沢】現代人は野菜の摂取不足といわれているので、もっと野菜を食べてもらいたいという気持ちがあります。ティータイムや食後に野菜ケーキを食べる人が増えることで、野菜不足が改善され、健康につながればいいなと思っています。また、野菜消費の市場が広がれば、農家の収入も上がります。すると、農業をやろうという人が増えるかもしれませんし、引いては国内の自給率も上がるかもしれません。そうなれば、嬉しいですね。
一方、野菜の生産現場では、規格外品が多く発生します。スーパーに並べてもらうには、色や形、大きさが一定でなければならず、それにそぐわないものは捨てられてしまうのです。自給率が低いにも関わらず、日常的にそんなことが起こっています。その点、野菜スイーツに使用する野菜は、一度加工するので見た目は関係なく、ものによってはそのまま冷凍したり、加工してから冷凍したり、あるいはパウダーにしたりして、長持ちさせることができます。つまり、野菜の寿命を延ばすことができるのです。今まで捨てていたものが新たな収入源に変わるわけですから、農家にとってもプラスになります。野菜ケーキには、そんなメリットがあることも知ってもらいたいと思っています。
――セミナーの講師を務めるなど、外部の活動も積極的ですね。
【柿沢】もっと多くの人に、食の大切さを気づいてもらえればと思って活動しています。「食育」というとイメージ的に硬く、食に無関心な人こそ来て欲しいのに、いざ募集をかけると食育に興味のある人ばかり集まるのが現状です。ところが、「野菜のケーキが食べられますよ」とケーキを前面に押し出すと、食育に興味がない人も足を運んでくれます。そういう引力が野菜ケーキにはあるので、そえをうまく利用し、「楽しく美味しい食育」を展開しています。他にポタジエのPR誌も毎月発行しており、さまざまな角度から情報発信していきたと思っています。
――子どもたちへメッセージをお願いします。
【柿沢】勉強はした方がいいと思います(笑)。中高生の頃は、何のために勉強しているのか分からなかったり、将来必要ないことをやらされていると思ったりすることもありますが、知識を蓄えることは、絶対に無駄にならないので。
私の場合は、豚からフランスに興味をもち、そこから料理を目指すようになりましたが、高校生の頃はサッカーも好きで、サッカーにかかわる仕事にも興味がありました。将来、やりたいことが明確であれば、「好き」に集中してもいいと思いますが、まだ漠然としているのであれば、色んなものを見た方がいいですね。私も何度か方向転換しましたが、大事なのは今「好き」なことを一生懸命やることです。その上で「好き」が変わるのは、より自分にピッタリの仕事が近づいている証拠です。
あとは、絶対にあきらめないことですね。私の場合は、料理を作りたいのにできなくて、でもやりたいから夜帰宅して作っていました。「これだ!」と思えるものが見つかってからは、学校に通って勉強し、自分でも体験し、さらに国内外を回って情報収集しました。そうして、自分がやりたいことを実現するためにお店をオープンしました。あきらめなければ、想いはかなうのです。ぜひ、みなさんも夢を実現させてくださいね。
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