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著名人インタビュー この人に聞きたい!
田川博己さん[JTB 代表取締役社長]



第3章 自然と触れ合い、感性を磨いて、エンターテインメント性を高めよう

新人で配属された別府支店での仕事は、旅行会社の仕事が凝縮されていた

――これまでお仕事をやってきた中で、印象に残っていることはありますか?

田川博己|カリブ海を背景に。入社2年目の別府勤務時代、地元の有力者にアメリカ周遊30日間旅行を企画・提案し、実現する。

【田川】まわりの同期のほとんどが都市部で海外旅行担当となり、地方でもだいたいが県庁所在地の支店に配属されました。そんな中、私の配属先はユニークで、大分県別府の温泉地でした。観光地での勤務は、珍しいことなんです。

別府は、熊本から高速道路を経由してくる車、本州からの列車、そして関西からのフェリーが発着する交通の要で、外国人旅行者の斡旋拠点となっていました。それを、少ない社員で切り盛りしなければならず、斡旋をはじめ、別府の駅で外国人のツアー客を列車に乗せたり、関西から着いたフェリーをお出迎えしたり、あるいは旅館の手配や予約をしたり。さらに、お客様に安心して別府を楽しんでいただくための企画を練るなど、あらゆることをやりましたね。通常だと、このような仕事をやるようになるのは入社して1、2年経ってからなのですが、別府支店は人が少なかったので、すぐ動け、自分で勉強しろという感じで、仕事を覚えました。

旅行会社の仕事として最も大事なのは、お客様を楽しくさせる場面を作る、時間を作る、空間を作ること。それを、旅行会社としてのエキスが凝縮された別府で、理論ではなく肌で覚えることができたのは、非常に素晴らしい経験でした。

――旅行業界で働く面白さは、どんなところにありますか?

【田川】多くの人と接することによって、感性が磨かれることです。私自身、この仕事に就いたおかげで、豊かな人生を送ってきました。この仕事に向いているのは、人を楽しませることで喜びを感じることができる、エンターテイメント性を持っている人で、なおかつそれを提案できる人ですね。昔は、旅は非日常的だったのですが、今は日常化し、ライフスタイルそのものになっています。ですから、人を楽しませる感性を持っている人の方が、旅を作る仕事には向いていると思います。

たとえば、陶芸をやりたいと思ったとき、これをするためにどれだけの日数が必要か専門家に聞いたら「1週間必要」と言われたとすると、1週間の旅ができるわけです。旅が目的だった頃は、1泊2日、2泊3日という日程がまずあり、そのなかにプランを詰め込んで商品を作っていたんですけど、そのプロセスが、これからは変わってくると思います。今、JTBは「総合旅行業」ではなく、「交流文化産業」を目指しています。これはまさに、その意志のあらわれなんですよね。

――お仕事する上で、これまで心がけてきたことはありますか?

【田川】自分のエンターテイメント性をいかに高めるかということです。JTBが掲げていた古い標語にいい言葉がありましてね。『ご出発の安心感、お帰りの満足感』というものです。お客様の旅は、お店に行くところから、そして今はWEBで検索するところから始まっています。そういう意味で、お店もエンターテイメントの空間になると。出発する前の安心感は、エンターテイメント性が高いほど、高まります。先ほど言ったプロセスを大事にすることと、エンターテイメント性を高めることは、私が営業企画課長になった20年前からずっと意識してきましたね。

子どものときに大いに遊び、自然とふれあい、感性を磨くことが大事

――最後に、中高生にメッセージをお願いします。

田川博己|新婚の頃。当時の会社保養所の箱根山荘にて。

【田川】インターネットに代表されるように、今は情報があふれているので、将来の仕事を一つに絞ることの方が難しいと思います。そんなときは、無理に決める必要はありません。いずれ決めなくてはいけないときが訪れるわけですから。

それよりもまず大事なことは、大いに遊ぶこと。最近は、家の中でゲームをする子が多いと思いますが、外に出てスポーツするとか、親と一緒にバーベキューをやるとか、もっとアウトドアを楽しんで欲しいですね。体を動かさないと、脳が活性化しませんから。私は子どもの頃、福井で夏休みを過ごし、田んぼで遊んだことが一番の思い出になっています。祖父に連れられて、カエルを獲ったり、どじょうを獲ったりした。そういう体験は、今の地域交流に役立っている気がします。

ですから、今地方にいる中高生のみなさんは、ぜひ自分のふるさとを存分に体験しておいてください。将来、その素晴らしさを体現して欲しいですね。都会の子は、グリーンツーリズムに参加するなどして、田舎を体験してもらいたいですね。どの職種を選んでも、自然とは無関係でいられないので、自然のことを知っておくのはとても重要です。学問的ではなくて、肌で感じるという意味で。ぜひ自然とふれあい、感性を磨いてください。もちろん、それは楽しい旅づくりにも役立ちます。