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著名人インタビュー この人に聞きたい!
田川博己さん[JTB 代表取締役社長]



第2章 「この仕事は人を動かすんだ」という先輩の言葉が胸に響き旅行会社へ

理科系に進むか、美術の分野に進むか悩んだ時期もあった高校時代

――高校生になって、将来についてどのように考えましたか?

田川博己|大学生の頃。

【田川】高校2年とき、理科系に進もうか、美術の分野に進もうかと悩んだ時期がありました。もともとは、橋やトンネルを設計する土木の仕事をやりたいと思っていました。そんなある日、美術の授業で作った作品を、先生が「これは面白いから展覧会に出そう」と言って出展したんですよ。そうしたら奨励賞をもらい、もしかしたら芸術の才能があるんじゃないかと勘違いしちゃいまして(笑)。

私は美術部には入らなかったけど絵が好きで、さきほどお話ししたように、小学校のときから絵画教室に通っていました。うちでは美術に関することがよく話題にのぼり、芸術を楽しむ雰囲気があったことが影響していると思います。あと、私の姉が武蔵野美術大学の油絵科に進んだことも刺激となったのかもしれません。

――それでお父さんの反応はどうでしたか?

【田川】父は、考え方や世の中の見方についての話はしていましたが、私に対する職業観は特になく、将来どの職業に就きなさいと言われたことはありません。でも、このときばかりは、姉も美大に行っているのに、その上息子までも行かせられるかと怒られました。

自分が親になってみて分かりましたが、芸術家で食べていけるのは、ほんの一握りですからね。風来坊みたいにパリに行って絵を描くとか、そういうのを嫌がったんじゃないかと思いますけどね。

予備校の先生のアドバイスで、工学部志望から商学部へ進路変更

――今のお仕事を考えるようになったのは、いつ頃ですか?

田川博己|インタビューphoto

【田川】現役の時は工学部に行くつもりで、そういう大学を受験したんですよね。でも、失敗して浪人してしまい、挫折を味わいました(笑)。それで予備校に通ったのですが、あるとき予備校の先生に相談したんですよ。「工学部に進んで、将来は土木系の仕事がしたい」と。そうしたら、「そういう仕事は、君には向かない」と言われまして。成績を見て言ったのか、人柄を見て言ったのか分かりませんが、「どうしても道路や鉄道をつくる土木をやりたいのか?」と聞くから、「やりたいです」と答えると、「交通経済学というのがあるよ」と教えてくれたんです。それは文系、商学部で学べるんですよ。

――でも、そう簡単に進路変更できるものなんですか?

【田川】しばらく悩みましたが、第三者が言うのは意外に正しいんじゃないかと思いまして。大学では、交通経済学を専攻しました。教授は、私が道路公団とか物流会社、今でいうロジスティクスですね、そのような企業に進むと思っていたようです。「必要なら紹介するよ」と声を掛けてくれました。その頃、私はというと、やはり交通に関係する会社をピックアップして、会社訪問していました。その中に、JTBもあったんですが、JTBにはゼミのOBがたくさんいるんですよ。それで、半ば無理やり連れてこられて(笑)、先輩から「JTBは人を動かすんだ。お前には、そういうのが向いているんじゃないか?」と言われたんです。その言葉が印象的で、ものを動かすか人を動かすかでいうと、人を動かすほうが面白そうだと思い、最終的にこの仕事を選びました。

あれは昭和45年で、ちょうど万博の年でした。あのとき、6500万人もの動員があり、人口の半分、赤ちゃんから100歳の人まで全部入れて2人に1人が行ったという、盛大なイベントでした。私も実際に会場に行きましたけど、人を動かすのはすごいな、最終的にはこんな仕事ができたらいいなと感動し、この仕事に大きなやりがいを感じたのを覚えています。

小学生の時に、夏休みになると福井の田んぼで遊ぶ生活をして、今は地域交流を会社のビジョンとして掲げ、仕事をしていますけどね。なんとなくブーメランのように、小さい時の原体験、原風景に戻ってきたなという印象があるんですよ。人とのふれあいであったり、自然とのふれあいであったり。この仕事に、導かれたような感じがしています。