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著名人インタビュー この人に聞きたい!
竹中平蔵さん[政治家・総務大臣 郵政民営化担当]



第3章 子どもの職業観育成のために

何をしたらいいか。それがわかった若者は、ものすごい力を発揮していますよ。

――話は変わりますが、今、中学校では総合的な学習の時間などで職業観の育成の授業が行われ、また国としてもいろいろなニート対策をされていると思うんですが、フリーター、ニートが非常に多い現状について、問題点と解決策をどう考えていらっしゃいますか。

竹中平蔵/政治家・総務大臣 郵政民営化担当

【竹中】これは前からずっと考えていることですが、日本では、教育は子どもたちのためにあり、職業訓練が大人のためにある。これがだめなんです。
もっと具体的に言うと、教育は文部科学省で、職業訓練は厚生労働省。そこで途切れているわけです。でも途切れること自体がおかしいんですね。子どもに対する教育の中に職業訓練が当然入ってくるべきだし、大人に対する職業訓練の中にもっと教育が入ってくるべきなんです。これはアメリカで比較的長く生活をしていたときに実感したことです。
私の娘もかつてアメリカの小学校に通っていましたが、そこには「逆参観日」というのがありました。つまり、子どもがお父さんやお母さんの職場に行くんです。親が子どもたちの教室へ行くのが参観日ですが、「逆参観日」というのは、子どもが親の職場に行って、仕事を見るわけです。同じような取り組みで、例えばお医者さんに興味のある人はお医者さんのところに行って、お医者さんはどういう仕事なんだろう、あるいは弁護士はどういう仕事なんだろうと、自分の就きたい仕事を一日じゅう見る機会があるんです。子どもにとって、職業を身近に感じる経験はものすごく重要ですよ。

ところが、今までの日本の学校教育は、どちらかというと世の中の汚いものに触れたらだめだと世間から孤立させるような教育がむしろ多かったんですね。大人について言えば、日本には大人になったらもう勉強しなくていいような雰囲気がすごくありますでしょう。ところがアメリカでは、大学に登録している学生のうち25%は25歳以上の大人ですからね。そういう形になってこなければいけないんだと思うんです。この国にそういう仕組みがないことが、若者が社会に十分接することができず、何をしていいかわからない一つの要因ではないでしょうか。何をしたらいいか見つかった若者は、ものすごい力を発揮していますよ。
僕は日本の若者が持っている潜在力はすごいと思います。しかし何をやっていいかわからない。「こういうことができるよ」「ああいうことができるよ」「これをやってみたらどう?」という機会がこの国には少なすぎる。そういう機会を目いっぱい、小学生、中学生、高校生に与えれば、ほんとうに変わると思いますけれどもね。

企業が社会に貢献していくことが、10年後、15年後のいい人材につながる。

――大臣のおっしゃるアメリカでの「逆参観日」や、海外で行われているその「ジョブシャドウ」などの取り組みを、今の日本の企業で実施しようとしても、セキュリティーの問題やコストの問題などがあって実現を阻んでいるのではないかと思います。企業もそのあたりを踏まえた上で、大胆に取り組む必要があるということでしょうか。

【竹中】そうですね。そこはやはり企業の社会的責任ですよ。つまり、社会に還元していくことが、10年後、15年後にいい人材が会社に来る要因になるわけです。もう一つは地域に対する貢献という観点からも、会社はそういうことに対してもっと熱心であるべきですね。
先ほど、教育は子どもだけ、職業訓練は大人だけと言いましたが、実は会社はお金もうけだけ、というところが日本の企業にはまだあるようです。頑張って利益を上げることは大変重要ですが、そういう社会貢献は企業がその気になればできることです。それをさらにコミュニティー、社会が評価していく好循環が生まれるかどうかだと思いますね。私は実現できると思います。