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著名人インタビュー この人に聞きたい!
前原誠司さん[政治家・民主党 衆議院議員]



第3章 「政治家」という職業について

メール事件から1カ月。組織を動かす上では、仲間をどれだけレベルアップできるかも大事。

――率直に伺いますが、今回の「メール事件」における民主党の代表の辞任に関しては、政権交代を目指していた前原さんにとっても非常に残念なことだったと思うんです。1カ月たった今、振り返りながら、政治家としてこの問題をどう昇華させて次に向かおうと思っていらっしゃるのでしょうか。

【前原】中身云々というよりも失敗は失敗ですから、同じミスをしないように、なぜ失敗したのかという反省をしっかりすることが大事だと思います。それから、これは政治の世界だけではなく組織を動かしていく上ではどこでも同じですが、一人だけ頑張っても何もできないわけです。そういう意味では、仲間あるいは同志と言える人たちすべてをどれだけレベルアップできるかが最も大事なことだと思います。

組織のトップというものは狙っても必ずなれるものではありませんが、再びそういうチャンスが来たときにつかまえられる準備と蓄えをしっかりしておきたいですね。

当時「顔のない」と評された日本の外交。だったら自分がチャレンジしたいと思った。

――次に「政治家」という職業についてお伺いします。
前原さんの政治家としてのキャリアを拝見しますと、大学卒業後、すぐに松下政経塾にお入りになっています。つまり最初から政治家を目指されていたわけですが、きっかけになった出来事があれば教えてください

【前原】政治家になると決意してから20年近くたちます。大学では国際政治を学んでいました。当時は米ソ冷戦の末期で、極めて緊張関係が高まっていたんですね。大韓航空機の撃墜事件もありましたし、核戦争の恐怖を全世界の人たちが感じるような、ある意味では緊張感の漂う時代でした。にもかかわらず、アメリカと同盟関係にある日本がどれだけの役割を果たしているかというと、極めて受動的で、自ら働きかけていないのではないかと思ったわけです。

当時「顔のない外交」と言われた日本の外交ですが、政治家にとって票にならなくても国にとっては極めて大事な事柄ですね。日本はエネルギー自給率も非常に低いし、食糧自給率もカロリーベースで4割です。資源も少ない国ですから、すべて外国から買ってこなくてはいけない。いいものをできるだけ安く買うためには、外国との付き合い、すなわち外交をうまくやらなければいけない。島国としての地理的条件も含めて極めて大事なことだと思うのに、それができていない。だったら自分がチャレンジをしたい、こういう思いを持つに至りました。大学3年生のときです。恩師である高坂正堯先生、今月の15日で亡くなられて10年になりますが、その先生の影響が非常に大きかったと思います。

自分の判断で政策が動く。そういうエポックごとに達成感があります。

――政治家についてやりがいを感じた瞬間には、どういうものがありますか。

【前原】日本が中国に対するODA(政府開発援助)を止めた年があります。それは中国が核実験をした年でした。当時、与党の外交の担当責任者であった私の意見が通ったからです。そのとき外務大臣だった河野(洋平)さんとけんかすることを覚悟で、核実験をした国にODAを出すのはいけないと自分の考えを主張し、止めることができました。

ゴラン高原への自衛隊によるPKO(国連平和維持活動)派遣の決定も、最終的には私の判断が重要でした。私が新党さきがけにいたときに、自民党は賛成、社会党が反対だったので、さきがけの考え方を求められたわけです。自分の判断で国際貢献活動が始まって今も続いている。そういうことがエポックごとの私の達成感につながっているかなと思います。

今は試合に出る前にブルペンでピッチングをしている段階だと思っています。

前原誠司/政治家・民主党 衆議院議員

【前原】また、税金をどれだけお預かりしてどこに割り振るか、というのが政治の大きな仕事だと思うんです。けがをして119番で救急車を呼んだときに、税金がそこに充てられていなかったら、「病院へ運ぶまでにこれだけのお金がかかります。あなたが払えないなら、申しわけないけれどもできません」となってしまう。税金を使って、どこまで国や地方が皆さん方のお手伝いをするのか。あるいは自分自身の力でやってもらうのか。その割り振りが重要です。

15年やってきてまだまだ不満なのは、むだ使いも多くて、ほんとうに必要なところにお金が使われていない。日本の経済規模からすれば、もっと税金は教育に使っていいと思うんです。しかし経済規模に見合った額ほど教育へ税金が使われていない。それに対して、全部要らないとは言いませんが、高齢化が進んで人口減少が始まっているのに、いまだに高速道路や採算の合わない空港をつくり続けるのは、税金の使い方が間違っているのではないか。それを変えるための野党第一党です。

今は、我々が政権をとったらこう変えてやろうというストックを一生懸命に積み重ねている、要は試合に出る前のブルペンでピッチングをしている段階です。ブルペンでピッチングをする人がいなければ、悪い政治が行われた結果、別の政党にやってもらおうというときに、かわりがいなくて国の運営が成り立たない。だから野党というものは必要であるけれども、ずっと野党を続けているのはつらい。それは思いますね。