HOME > この人に聞きたい! > 乙武洋匡さん(スポーツライター)

著名人インタビュー この人に聞きたい!
乙武洋匡さん[スポーツライター]


[INDEX]


第2章 教育現場で感じた子どものこと、先生のこと

「同じ班の子の名字を知らないんですよ。これは衝撃的でした。」

【乙武】「子供の生き方パートナー」として小学校へ行く機会が増えましたが、最近ちょっとショックな出来事がありました。3年生と給食を食べながら、「自己紹介じゃなくて、他己紹介をしてみよう。隣の子の名前と、その子がどんな子か、それから、その子の好きなことと、一番いいところを順番に紹介してね」と提案したんです。いざ始まると、男の子が「かおりちゃんです」「名字は?何かおりちゃん?」「…わからない」。同じ班の子の名字なのに知らないんですよ。ほかの学校で試してみても、やはり言えない子がいる。これは衝撃的でした。名前が分からないぐらいですから、ほかのことにも当然注意が払われていないんですね。仲間という意識や感覚が薄いんだろうなということが伝わってきました。仲良しの子に対してでも「優しい」「頭がいい」と抽象的で、例えば「お腹が痛くて授業中に保健室に行くときに、心配して一緒についてきてくれました。だから優しい子です」という具体的なエピソードが一切出てこないんです。コミュニケーション能力の不足もあると思うんですが、それだけクラスメイトとの関わり方が、僕らの時代と大きく変わったのかもしれません。

この出来事について、僕はまだ理由を考察しきれていませんが、1つには、やはりインターネットがあると思いますね。今の子どもたちはチャットやネットの掲示板で「遊んでいる」感覚を十分得られるようなので、一人でいても平気なんです。ネットで何となくつながっていられる安心感があるから他人には関心を持たない。そのくせ自分には関心を払ってほしいのだと感じます。もちろんネットやゲーム、携帯電話だけではなく、その背景をもう少しきちんと見て、理由を考えていかなければいけないと思っているんですが。

「親からシャットアウトされてしまう」先生たちのジレンマ

乙武洋匡/スポーツライター

【乙武】もう一つ、教育現場で実感することは、内面に問題を抱え、教室でも問題行動を起こす子どもたちが、僕らのころよりやはり増えているなということです。この点について先生方にお話を聞くと、その子どもたちは10割と言っていいほど家庭に何らかの問題を抱えているそうです。では教師が家庭に入り込んで、例えば夫婦問題にタッチできるかといったら、まあ難しいですよね。

問題は抱えているけれども、「先生、うちは今こんな問題を抱えて、子どもにこんな苦労をかけてしまっているので何とかしてください」と親が積極的には言ってくれない。言われれば、先生も「じゃあ、一緒に頑張っていきましょう」と声をかけられるんですが、「うちの問題なので首を突っ込まないでください」とシャットアウトされてしまったら、それ以上は何もできない。結局、いくら子どもたちの問題を解決したくても、根本的な解決に至ることができないという絶望感を先生方はお持ちのようです。聞いた僕も正直頭を悩ませていますが、これからの考えどころでしょうね。

僕が先生方と接して思ったことなんですが、教育現場には、自分の時間を割いて、真剣に子どもと向き合う先生方が山ほどいるんです。マスコミは、きちんとそこにも光を当ててほしい。確かに教師のわいせつ行為や体罰を糾弾する報道姿勢は大事ですが、同等に、普段頑張っていらっしゃる先生方を正当に評価していただかないと、すごく不公平だと感じます。偏った報道ばかりでは、教員を目指す若者が減ってしまいますから。

次回は、教育の現場で必要とされるていること、そして子どもたちやその周りの親、先生へのメッセージを伺います。