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著名人インタビュー この人に聞きたい!
笹森通彰さん[イタリアン・シェフ]



第2章 人と話し、その土地を知ることも、イタリアでの勉強だった

できれば、本場イタリアで日本人がどこまでやれるか勝負してみたかった

――いよいよイタリアですね。でも、すでに自分でお店を切り盛りできるところまでスキルを身につけたら、もう行く必要はないのでは?

笹森通彰|できれば、本場イタリアで日本人がどこまでやれるか勝負してみたかった

【笹森】技術的には、東京もイタリアもあまり変わらないです。イタリアの方が、食材が安いということくらいでしょうか。とはいっても、やっぱり本場で一番上を実際に見ないことには想像の域を出ず、それに近づくため、追い越すための目標を明確にできないですから。また、イタリア料理を深く理解するには、単に調理の技術を磨くだけではなく、イタリアという土地を知ることも大切だと思うんです。だから、特にテーマは決めず、あるものをすべて吸収しようというつもりで行きました。

最初に働いたのは、ドラーダという当時ミシュランの2つ星お店で、そこには半年いました。東京の知り合いのシェフに紹介状を書いてもらったんです。お店は、行くのに一苦するほど人里離れた山奥にありましたが、2つ星ということで、イタリア中から最高の食材を集めて、最高の技術で料理を提供する、東京にあるようなお店をイメージしていました。ところが、行ってみると、土着というか、お店で使う野菜を栽培している畑があり、チーズも自家製で、さらに朝調理場で仕込みをしていると、近所のおじさんが『はい、これ今日の分』と子ヤギを持ってきてくれて、それを外で絞めていました。それにはちょっとビックリしましたが、そこは、想像以上に僕がやりたかったことをやっているお店でしたね。

暇なときは、牧場にミルクを絞りに行ったり、肉屋に肉のさばき方を教えてもらいに行ったりしました。また、休みの日には、友達と車を飛ばして人気店をはじめ、あちこち食べに行きましたね。美味しいものを食べ歩くことも、やはり勉強の一つだと思っていましたから。

――他にはどんなお店に行かれたんですか?

【笹森】次はトスカーナの店で、ここも半年いました。このお店は街中にあったので、あちこちからいい食材を集めて、一つの皿に盛り付けるときには何人もでやってきれいなお皿を盛り付けるようなお店でしたね。最初の店とは正反対の、華やかなお店でした。

そのあと、同じトスカーナのキャンティー地区にあるお店に移りました。ここは新規オープンのお店で、知り合いに呼ばれて。ちょうどワイナリー(ワイン用のぶどう畑)を見たかったのですが、キャンティー地区はそのど真ん中にあったので、二つ返事で行くことにしました。ここは、冬はお店を閉めるので、9カ月、ワンシーズンいました。

最後はシチリアのホテルシャルトポワ。このとき、30歳になり、ビザも切れそうだったので帰ろうかなと思っていたところ、ホテルのオーナーからいくら出すからもうちょっといてくれとか、ミラノの知り合いからシェフでやってくれとか、いろんなお話をいただいて。もちろん、地元の弘前でやりたいという気持ちは変わらなかったんですけど、本場イタリアで日本人がどこまでできるか勝負するのも面白いな、という気持ちが芽生えていました。それで、ミシュランの星を1個くらい取って帰ろうかなと思ったんですけど、その頃労働ビザの審査が厳しく、結局ビザがおりなくて帰ることにしました。

スタートが遅かった分、人が休んでいるときも勉強しなければならなかった。でも、遊ぶところは遊んでいましたね

――やりたいと思うことと、実際にできることの間にはギャップがあり、多くの人はそこでくじけますが、笹森さんは計画通りに物事が進んでいますね。これまで、挫折や失敗はありますか?

笹森通彰|スタートが遅かった分、人が休んでいるときも勉強しなければならなかった。でも、遊ぶところは遊んでいましたね

【笹森】僕は、できると思って計画を立て、その通りに事が運び、結局できました。30歳で独り立ちするという目標と、それを実現するための計画を立てたことが、大きかったのではないでしょうか。あとはそれに向かって、その時々で自分がやるべきことをやりました。行き詰ったり、挫折したりする暇もなかったですね。

一般的に、シェフになろうとすると料理専門学校に通いますが、僕は、行くためのお金も時間もなく、現場主義でやってきました。語学に関してもそうですね。初めから料理人を目指して、高校を卒業してすぐに料理学校に通った人と比べるとスタートが遅いので、自分がその人たちよりも先に進むためには、彼らが休んでいる間や寝ている間にも勉強しないと差が縮まらないですからね。そこを意識して、頑張ったところはありますね。ただ、あんまり頑張っちゃうとパンクしちゃうんで、遊ぶところは遊んでいましたよ。やはり、抜くところはちゃんと抜かないと、続かないですよ。それは今も同じですね。