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著名人インタビュー この人に聞きたい!
野口健さん[アルピニスト]



第3章 やると決めたら、実現するまでなりふり構わず、格好つけずに、とにかくやること。

どんなに素晴らしいことでも、情熱だけでは継続できない。だから、仕事としてマネジメントすることが大事。

――山から何かを表現するにしても、仕事として行うには収入がなければできません。それはどのようにしているのですか?

【野口】まずアクションです。たとえば、富士山をきれいにするのに、自分がゴミを拾わずに「汚い」と言っているだけでは、誰も動きません。だから、自分が先にやる。そうすると、説得力が出てくるんです。大変ですけれども、それを続ける。さらに、それを伝える。伝えなかったら、自己満足で終わってしまいますから。とはいっても、ただ伝えるだけでは、行政はそう簡単に動いてくれません。だから、手を尽くして環境大臣に現場に来てもらうんです。というのも、自分の目で見ないと「ああ、そうですか」で終わってしまうんです。ところが、樹海の不法投棄を目の当たりにすると「けしからん」となり、そこで初めて僕ら現場の人間と同じ体温になるわけです。そうして初めて、大きな変化が生まれてくるんです。だから、そこまで持って行くにはどうすればいいのか、絶えず考えていますね。

このような活動をすると、「野口健はエベレストや富士山でごみを拾って売名行為をしている」という人がいます。でも、これはしなきゃいけないんです。たとえば企業だったら、営業部とか宣伝部とかありますよね。僕はそれらを一人でやっていて、現場に行って活動するときもあれば、PRのためにテレビに出ることもあります。なぜそうするかというと、「自分はいいことをやっているんだ」とボランティアに酔っていても活動の輪は広がらないし、経済的支援をしてくれる企業も現れないからです。それでは食べていくことができないから、結局続かないんですよ。続けていくためには、仕事としてマネジメントしていくことが大事なんです。

――ちなみに、富士山の清掃活動では何人くらいの人が集まるんですか?

【野口】第一回目の2000年は100人ぐらいだったのですが、2007年には6400人、2008年には8000人超えました。だから、毎週富士山へ行かなくちゃいけなくて大変なんですけど、全国から大勢が集まるとなると行政も無視できなくて、行政の人も参加します。先日、環境大臣もいらっしゃいました。行政を巻き込めば、それがひとつのムーブメントとなり、より大きな活動へとむすびつけていくことができるのです。

環境は本来、興味のあるなしにかかわらず、全員が学ぶべきもの。教育現場で活躍できる環境のプロを育てることが次のテーマ。

――今後のビジョンを教えてください。

野口健|環境は本来、興味のあるなしにかかわらず、全員が学ぶべきもの。教育現場で活躍できる環境のプロを育てることが次のテーマ。

【野口】僕は、野口健環境学校というのを運営しています。義務教育とは違い、環境問題に関心のある子は来るんですけど、ない子は来ないんですよ。でも、環境問題はすべての人にかかわってくることなので、興味のある子どもだけが勉強するというものではないんです。ですから、学校のカリキュラムの中に「環境」の授業があってもいいのではと感じています。

ところが、先生方は環境について教育を受けていないので、何をどう教えればいいのか分からない。僕は、学校の先生方がすべてやる必要はないと思っています。NPOでも農家でも漁師でもいいので、先生は間を取り持つコーディネーターとして動き、教えるのは現場のプロに任せればいいんです。それを、全部学校の人で教えようとするからパンクしちゃうわけですよ。

以前、長野県小諸市の市長さんから、「小諸を環境都市にしたいから協力して欲しい」というお話をいただいたんです。このとき僕は、小学校でやらせて欲しいと市長にお願いしました。つまり、義務教育の中に環境教育を入れてもらいたいと。初年度は6校中4校が参加を希望し、その生徒たちと一緒に森に入って間伐などを行い、森林再生事業に取り組みました。このとき、僕は地元メディアを呼んで、テレビで紹介してもらったんですよ。そうしたら何が起きたかというと、参加しなかった2校の子どもの親たちから「なぜうちの子の学校ではやらないのか」という声が学校に集まったんです。こうして、当初参加しなかった2校も翌年から加わることになり、小諸市の全部の小学校で環境教育をやるようになったんです。行政が呼びかけて、義務教育に環境教育を取り入れたのは小諸市が全国で初めてです。

僕は、これが一つの成功事例として広まっていくことを期待しています。もしこれが実現すると、環境を教える先生が必要になってきます。今、若い人の中には、ニュージーランドやオーストラリアに留学して環境の勉強する人がいますが、帰国しても活躍の場がないんです。だからボランティアをやるんですけど、結婚して子供ができると生活できないから続かないんですよね。情熱は大事だけど、それだけではやっていけないんです。それが、義務教育で環境を教えるようになれば彼らも生活できるし、本物の先生が育ちます。ですから、環境を教えるプロを育て、活躍できる場を作っていくことが次のテーマですね。

趣味と仕事は必ずしもイコールではない。やると決めて、それを継続して、広がっていくもの。

――「自分に合った仕事」って、誰でも見つけられるものでしょうか?

野口健|趣味と仕事は必ずしもイコールではない。やると決めて、それを継続して、広がっていくもの。

【野口】若い人に会うと、「自分に合ってないから」といって仕事をやめちゃう人や、学校を卒業しても「やりたい仕事が見つかるまで働かない」という人が多いんです。でもね、そもそも自分に合っている仕事がそんなにいっぱいあるのかというと、そうではないと思うんです。僕だって、ごみ拾うのが天職だなんて思ったことないですよ。やらなきゃいけないから、やっているわけです。つまり、趣味と仕事は必ずしもイコールではないということ。これをやろうと決めて、それを続けることで次第に「自分の仕事」として定着し、広がっていくわけです。

――仕事をやり遂げるには、何が必要ですか?

【野口】やっぱり、しつこさが大事だと思うんですよ。この前、大学生から「どうすれば、有名人になれますか?」と質問されたんです。それで「どうして有名になりたいの?」と聞いたら、「ラクして金儲けしたいから」と言うんですよ。たとえば、「エベレスト清掃登山」というと何となく派手だから、「ラクして金儲け」しているように思えるのかもしれません。でも実際は2ヵ月間も雪山にこもり、高山病になって嘔吐しながら、毎日氷河の中で必死になってスコップで雪を掘っているわけでよ。これを続けてきたからこの活動が定着して、それが富士山にも広がって、さらに他の活動へとつながっているんです。

多くの人は、表面の派手な部分しか見てなくて、そこに至る影の部分には、あまり目を向けません。でも、大きな活動というのは、それまでの積み重ねがあって初めてできるものなんです。それを実現するには、いかに過程を楽しめるかです。7大陸最高峰を登りたいのであれば、まず何年までにやると決めるじゃないですか。そうしたら、あとは逆算ですよね。どのようなトレーニングをして、いつまでにいくらお金を集めてとか。この、計画を立てて1つ1つ、コツコツとやっていく過程が面白いんですよ。そこを楽しめなかったら、大きなことなんかできるわけないですよ。要は、くどさ。やると決めたら、実現するまでは、なりふり構わず、格好なんかつけずに、とにかくやることです。

 
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