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著名人インタビュー この人に聞きたい!
野口健さん[アルピニスト]
[INDEX]
- 第1章 山は、落ちこぼれていた自分の存在意義を確かめる手段だった
- 第2章 山に登ることよりも、山を舞台に何かを表現していきたい
- 第3章 やると決めたら、実現するまでなりふり構わず、格好つけずに、とにかくやること。
●第2章 山に登ることよりも、山を舞台に何かを表現していきたい
やりたいことを実現するために資金を集める、その延長線上でやってきた。
――どのようにして、アルピニストというお仕事につながったのですか?
【野口】大学に入ったとき、父から「冒険には金がかかる。ということは、金を集めるところから冒険は始まるんだ。高校生のときは俺が払ってやったが、これからは自分で金を集めろ。それができないなら、偉そうに冒険なんかするな」と言われたんです。確かにそうだなと。以来、スポンサーを見つけるために、スーツを着て企業訪問をするようになったんです。でも最初は実績もないし、バブルの後でもあったから、とてもシビアでした。「なんで君の遊びのためにお金を出さなきゃいけないんだ」なんて怒鳴られたりもしましたね。そのたびにショックを受けて落ち込むんですけど、考えてみたら当たり前で、それはそうだと思ったんですよ。そこで、相手にとってメリットは何かと考えるようになり、思い至ったのが使用レポートです。
たとえば、時計メーカーを訪問しようと決めると、その会社が出している登山用の時計を購入し、それを付けて山に行くんですよ。すると、意外と使えないんです。針がいっぱいあると見かけはプロっぽいんですけど、極限状態でそんなに多くの情報はいらないんですよ。あるいは、時計は大丈夫なのにバンドが切れたとか。アーミーナイフも同じで、ぶっとくて、いかにもプロ用といったナイフがありますが、そんなのに限って使えないんですよ。使いやすいのは、持ちやすくてすぐに取り出せるシンプルなものなんです。
企業からすると、社員がエベレストに行くわけにいかない。一方、僕はしょっちゅうエベレストに行っているので、僕の情報が企業にとって生きてくるわけです。お互いにメリットがあるわけですよね。そこに気づいたんです。だから、スポンサーに話を持って行くときには、相手の会社を徹底的に調べました。当時は、インターネットなんてなかったからかなり大変でしたが、とにかく調べる努力をしましたね。そうして、時計でもナイフでも登山用ウェアでも、使用レポートを持って行き、改善策を提案すると、相手の対応も違うんですよ。
でも当時は、それが仕事になるとは思っていませんでした。ただエベレストに行くためにやらなきゃいけなかったんです。必要な費用を集めることができて初めて行けるわけですから。エベレストに行きたいと思うだけで終わるか、実際に行けるかの違いはそこなんです。行きたいと思っている若い人はゴマンといますが、ほとんどが行けない。学生の頃、僕はどうやったらスポンサーを獲得できるか考えに考えて、ようやく思考パターンができたんです。その延長線上で、今まで来ているんです。
――植村直己さんに憧れて、というわけではないんですね。
【野口】登山家になりたいと思ったわけではないんですよ。よく根っからの登山家っていますよね。山の斜面を見ると、「あの岩をこう登って、それからグルッと回り込んで…」とルートをいろいろ想像してニヤニヤしている人。僕は、そういう技術的なことには興味ないんです。そうではなく、山を通じて何かを表現していければと思ったんです。
たとえば、『落ちこぼれてエベレスト』という本を書いたのは、勉強ができなくったって、他に打ち込めることがあればいいんだ、ということの表現なんですよね。
エベレストに日本のごみが多いのは日本社会の縮図だと気づき、社会貢献活動を開始。
――現在、積極的に行っている環境活動も、表現の一つでしょうか?
【野口】そうですね。エベレストには、世界中の登山家たちが捨てて帰ったごみが大量に埋まっているんです。ごみを捨てる隊もあれば、持ち帰る隊もあり、それは出身国で分かれるんですよ。ドイツ、デンマーク、ノルウェー、スイスはきれいにする。対して、ごみをがばっと置いて帰るのは、日中韓とインドとロシアです。要はアジア側が多いわけですよ。それでその国に行くと、国民性として、ごみに対して意識が低いんです。
あとね、これは不謹慎な話かもしれませんけど、エベレストで、悪天候にもかかわらず突っ込む隊が毎年いるんですが、必ず死ぬんです。そういう隊って、決まってごみが多いんです。一方、悪天候に行く手をはばまれて「これはやばいな」とか言いながらも気持ちを切り替え、「また来年だね、チャオ」と言って楽しそうに帰っていく連中って、きれいにして帰るんですよ。極限地では、生き様がすごく出ますね。
話がそれましたが、最初はエベレストが汚いという現実があり、その中で日本のごみが多かったんです。そうすると、他の国の登山家から「お前ら日本人か」と怒られるわけですよ。悔しいからごみを拾うんですけど、途中から、これは日本の登山家だけの問題ではなく、日本社会の縮図なのかもしれないと思うようになったんです。エベレストでごみを拾っているんですけど、メッセージは対日本なんですよ。
そのうちに、日本人が環境や自然に対してもっと高い意識を持つにはどうすればいいのかと考えるようになり、環境学校をつくってみたり、自然を守る専門家であるパークレンジャーを提案してみたりするようになり、活動が広がってきたんです。
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