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著名人インタビュー この人に聞きたい!
野口聡一さん[宇宙飛行士]


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第2章 自分で決めたことだから頑張れるし、苦境も乗り越えられる

苦境に直面したら、日々やるべきことに集中し、事態の好転を待つ

――訓練生として合格してから、訓練はかなり大変だったと思いますが、一番苦労されたことは何ですか。

野口聡一/宇宙飛行士<br>(提供 NASA)

【野口】体力的な面では、サバイバル訓練などいろいろありましたが、どちらかというと精神的なものの方がこたえましたね。特につらかったことが二つありまして、一つは、基礎訓練が終わり、宇宙飛行士としては認定されたものの、なかなか宇宙に行く日が決まらなかったとき。やっていることに間違いはないんだけれども、なかなか先が見えない不安感がありました。

もう一つは、ミッションが決まって7名の宇宙飛行士のチームで訓練を始めて、いよいよ自分たちの番だというところで、2003年2月のコロンビア事故が起こりました。もう一歩というところで遠のいていってしまう夢もあるのかと思いましたね。もちろんその事故の直後は、仲間の死によって残された家族の方の世話や精神面のケアなどで手一杯なんですけれども、少し経ってから「このまま続けていてチャンスがあるのだろうか」と悩みました。

――それを、どういう形で乗り越えられたのですか。

【野口】どんなに悩んで苦しんでも、時間しか解決してくれない問題というのはあるものです。じたばたしても状況を悪くするだけということも多い。だから無闇に問題を解決しようとせず、日々やらなければいけないことをコツコツとやっていくしかないでしょう。僕の場合は、目の前にある作業にしっかり集中して、1日1日を積み重ねていくようにしました。具体的には、朝起きるときにはスッキリ起きて「今日も頑張るぞ」と気合いを入れ、夜寝るときには「今日1日、決められた作業はちゃんとやれたな」と満足感が得られるように心がけました。苦境を乗り切るには、事態が好転したときのために、日々自分がやるべきことに意識を集中させるしかないですね。そういう意味では、宇宙飛行士だから特別なのではなく、どんな仕事でも同じかなと思います。

調和を尊ぶという日本人の美徳を大切にして仕事をしていきたい

――野口さんは、いろいろな国の方とお仕事をするケースが多いと思いますが、その中で、日本人が持っている良さとは、どんなところだと思いますか。

野口聡一/宇宙飛行士

【野口】調整能力とハーモニーですかね。私も日本にいるときは気がつかなかったんですが、調和を尊ぶというのは、何となく日本的な美徳だと思うんです。大勢の人がうまくいっていないときに、その妥協点なり調和点なりをごく自然に探し出す。それは、日本人の持っている非常に美しい点だと思うので、多国籍クルーになったときに、その特性を生かせるといいかなと思っています。といっても、宇宙飛行士同士はみんな仲がいいので、妥協点を探すのに苦労するとか、調和を求めないとどうにもならないということは、なかなかならないんですけどね。和気あいあいとやって、お互いがストレスを感じずに済むよう、うまく演出していきたいなとは思っています。

――宇宙に行かれた後、野口さんの中で何か変化はありましたか。

【野口】もう丸2年経ちますが、内面的には、宇宙に行ったときの感動とか達成感というのは、意外と色あせないものだなと思っています。一方、対外的には、私は子どもたちを対象に講演会をやっています。そこでは、たとえば彼らは大変なことはなかなかやりたがらないなといった問題に直面することがあります。幸いにも多くの方から、宇宙に行ったことを非常にポジティブにとらえていただいているので、その立場から、微力ながらも子どもたちに、「将来に向かってポジティブに頑張ろう」と思ってもらうにはどうしたらいいのかなと、そんなことを考えながら日々の生活を送っています。

損得に左右されず、自分の頭で考え、本当にやりたいことに全力で挑む

――今挑戦していることはどんなことですか。

野口聡一/宇宙飛行士

【野口】2008年5月に、国際宇宙ステーションの第20次長期滞在搭乗員に任命されました。来年の末にソユーズ宇宙船に乗って、国際宇宙ステーションに半年間にわたり宇宙滞在する予定です。最初に人間を宇宙に送ったのはロシアで、宇宙ステーションの経験が非常に長いことから、ロシアでも訓練を受けています。そのため、宇宙飛行士になってから9年間、これまではほとんどアメリカで過ごしてきたんですけれども、いまはロシアとアメリカの生活が半々になっています。宇宙開発の歴史、宇宙旅行の歴史をひも解くと、アメリカとロシアは車の両輪のように走ってきました。日本は、ずっとアメリカ一辺倒でしたが、ここでようやく両方の車輪にまたがって安定して進む状態になりました。私自身も、アメリカとロシアの両方にまたがって活躍するチャンスが、目の前に見えてきていると感じています。

――最後に、中高生に向けてメッセージをお願いします。

【野口】一番大事なことは、自分の頭で考えることだと思います。誰かから言われたからというよりは、自分の中から出てくる言葉に従ってやる方が限界以上に頑張れると思いますしね。目の前の損得にとらわれずに、自分が本当にやりたいこと、あるいはやりがいがあると思うことに全力で向かって行って欲しいと思います。

――今日はどうもありがとうございました。今後のご活躍をお祈りいたします。

 
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