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著名人インタビュー この人に聞きたい!
三枝成彰さん[作曲家]



第3章 仕事は生きている証。好きなことをやっている自分は幸せ

一銭のお金にもならない自分のオペラを、いまでも365日休みなしで書いています

――好きだったら、人の3倍の努力が必要だと。三枝さんもやはりそのくらいやってこられたんですか?

三枝成彰/作曲家

【三枝】かつて忙しかったときは、1週間で7時間ぐらいしか寝ていませんでした。そのときはチームで仕事をしててね。不寝番を一人立てるんですよ。「絶対寝るなよ」と。それで、みんなで横になって、「1時間たったら起こせよ」と。起きたら今度は、代わりばんこにお風呂に入って目を覚まして。食事は、箸を持つ時間さえ惜しいから、お寿司とかサンドイッチで済ませていました。そんな生活をずっと続けていましたね。とにかく忙しくて、本当に大変でした。

また、一昨年までは朝の6時まで仕事して11時に起きるという生活を、年間125日やっていました。そう、63歳まで。3日に一度、徹夜なんですよ。なぜ3日かというと、ほかは地方や外国に行っているわけです。つまり東京にいない。そんな生活を振り返り、自分は人の3倍努力してきたと自負しているんです。才能はないけど、人の3倍努力はできた。才能がなくても作曲家になれたんだと思っています。

現在は65歳でもう年金をもらえる歳なんですが、今も努力は続けています。私が今作曲をしている曲って、一切お金にならないんですよ。自分のオペラを書いていて、自分が発注しているわけですから発注料なんてあるわけがないけど、逆に演奏家に払うお金は発生します。趣味と仕事がほとんど一致して、20年ぐらい前から書いていますが、オペラでは一銭もお金が入らないんですよ。だから、過去に稼いだ印税や、いろいろなところで司会をさせていただいたり、音楽監督をさせていただいたりして、自分のオペラを実現しています。オペラには、空いている時間のすべてを費やしています。だから、365日休みなし。仕事と言えば仕事ですが、趣味と言えば趣味。週に2日ぐらいは、朝から晩までその曲を書いていますね。これは、自分の生きている証なんですよ。好きなことをできて、こんなに幸せな人間はいないと自分で思っています。私を支えてくれているすべてのことに、本当に感謝していますね。

自分でこれをやると決めたら、人の3倍努力するのみ。才能は関係ない

――最後に、先生のこれからの仕事の目標と、子どもたちへのメッセージを聞かせてください。

三枝成彰/作曲家

【三枝】仕事の目標としては、83歳まで書くオペラを決めてあるんですよ。今、その予定どおり進んでいるんです。できるか分かりませんが、それが一つの夢の実現だと思っています。

中高生へのメッセージとして伝えたいのは、自分でこれをやると決めたら、人の3倍頑張りなさい、ということです。そうしたら、夢は必ず達成できるものだと思う。「ただし」がつく。一生やらなきゃだめだよ。途中で飽きたらおしまいだよ。君が10歳で音楽家を目指したら、70年間ぐらいやらなきゃいけないんだよ。70年間飽きない自信があるかい?

たとえばギターが好きだったら、ギターを1日8時間、10時間、毎日弾いたら絶対にうまくなる。1~2時間弾いても、どうにもならないよ。何か好きなことにのめり込むことが、その人の将来を決めると思います。それはとても周りが心配することかもしれないけど、寝ても朝起きてもとにかくギターだけを弾くんだ。それを何十年も続ければ、必ずあなたは偉大なミュージシャンになるでしょう。

一つ付け加えると、そのことに才能は必要ないですよ。才能なんか絶対に関係ない。やり続けること。また、趣味なんか持っちゃだめだよ。好きでやっているんだから、趣味なんか持ったらばちが当たりますよ、ぐらいの覚悟を決めてそれに邁進すること。ただ、運がいい人と悪い人がいる。数年で有名になる人もいれば、30年かかってやっと芽が出る人もいる。これは自分の持っている能力と運だから、仕方のないこと。でも、人間って不思議なもので、努力すると運も回ってくるんですよね。と、私は信じています。

――ありがとうございました。

 
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