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著名人インタビュー この人に聞きたい!
渡邉美樹さん[ワタミ株式会社 代表取締役社長]



第2章 学校教育改革に取り組んで3年半、その効果とは

「なぜ国語を教えているの?」に先生自身が答えられない。これが今の日本の教育レベル

――次に渡邉さんが理事長を務められている郁文館夢学園(※)についてお聞きしたいと思います。ビジネスの現場から教育現場に入られて、今までとのギャップを感じたり、予想外のことはありましたか。

【渡邉】もう、めちゃめちゃありましたよ。いや、逆に言うと全然なかったというのが正しいかな。というのは、「どうしようもないから僕がやるんだ」と入ってみたら、やはりどうしようもなかった。これが教育の実態ですよね。何が悪いのかといったら、この『13歳のハローワーク』の概念がないということです。

――『13歳のハローワーク』の“将来仕事をしなきゃならないなら、自分の好きな仕事をしよう”といった概念がないということでしょうか。

渡邉美樹/ワタミ株式会社 代表取締役社長

【渡邉】それだけじゃないですね。つまり「勉強の目的は何か」がわかっていない。例えば国語の先生をつかまえて「なんで国語を教えているの?」と尋ねても答えられない。「君はなんで社会を教えているの?」と聞いても答えられない。先生たちに目的がない。でも、もっと突っ込んで尋ねていくと、彼らの答えは明確です。いい中学校、いい高校、いい大学に入れるため。たくさん点数をとらせるために教えているわけです。これがしょせん日本の教育のレベルなんですよ。

本来、教育というのはそうじゃないですよね。その子が幸せになるために教育がある。そして、その子が幸せになれるためには、まず「幸せ観」が必要です。「どういう人が幸せなの?」──例えば金儲けだけをして、30歳でリタイアして南の島で暮らす人が幸せであるなら、それは別の教育があるわけです。そうじゃないでしょう。幸せというのは、夢を持って、社会人になって、夢を実現していくプロセスの中で、その人がなくてはならない存在になっていく。その結果、足跡を残し、人間として成長しながら死んでいく。そんなものが人間としてのほんとうの幸せではなかろうかという前提があって、僕の教育観があるんです。

そういう中ではテストの点数なんかどうでもいい。点数を人よりも多くとるとか、偏差値が高いとか低いとか、そんなものは関係ないんですよ。先生方の中にも「いや、おれはそういうのを幸せだとは思わないよ、おれは、人間の幸せはこうだと思うよ、だからこういう教育をするんだよ」と言えるやつが一人でもいたらいいんですが、そういう先生さえもいない。
今の日本の教育の間違いというのは、偏差値に踊らされて大学を目標化した教育体系を組んでしまったということでしょうね。だからこそ『13歳のハローワーク』が尊いわけですよ。この本はすばらしいです。

子どもたちは、大学が目標ではないということがわかり始めています

――教育事業に参入されて3年半。社長の教育理念に基づいた学校運営の成果としては、いかがですか。

【渡邉】それは、ものすごい成果です。それまでは、あいさつも何もないゴミだらけの教室で、生徒たちは授業中も寝て、時には歩き回り、という学校でした。でも今はあいさつがこだまするし、身だしなみが整い、1600人の生徒は遅刻者ゼロになり、今も続いております。約束を守ることの大切さを彼らは理解しています。授業はすべて成立し、寝ている生徒は一人もいません。ゴミは一つも落ちていません。子どもたちは大学入試が目標ではないということがわかり始めています。
大学の先に人生の大事なことがある。彼らは自分の人生をどうやって生きていこうかと模索を始めています。そのために我々は一生懸命サポートしています。

その一環として、二通りの言わば『13歳のハローワーク』のライブ版をやっているんですよ。職業人をどんどんぶつけて直接話をさせること。それから、生徒を職場に行かせて実際に働いている場面を見せること。それらによって、彼らのスイッチはかなりオンになりますね。
職業人は月に2~3人必ず来ます。生徒から常にアンケートをとっていて、例えばカリスマ美容師になりたいやつが20人ぐらいいると、実際に活躍しているカリスマ美容師に来てもらって、彼らに直接の講義をしてもらう。医者になりたい生徒もうちの学校に40~50人います。すると、僕がもう一つ個人で経営している病院の外科の達人に大阪から来てもらって、2時間ぐらい手術の話とかするわけです。

職業という切り口の前に、実は社会という切り口がある

――そういう教育を受けることで、仕事を身近に感じ、選択肢がどんどん広がっていくのでしょうね。

渡邉美樹/ワタミ株式会社 代表取締役社長

【渡邉】当然広がります。ただ、大事なことですが『13歳のハローワーク』は職業という一つの切り口からの情報です。しかし職業という切り口の前に、実は社会という切り口があるんですね。要するに、この地球はどうなっているの、この日本はどうなっているのという地球観、日本観があって、そこで初めて職業という役割が出てくるわけですよ。そこまでちゃんと組み立てて教えてあげないと、職業だけぶつけても、これは駄目です。

本来ならばそういう「世界観」からまず与えなきゃいけない。我々はそれを実践しています。
中1からまず世界観を与え、中3で初めて職業を意識させます。そこで卒業論文を書かせるんです。要するに自分はどういう人生を生きたいのか。その上で、今度は高1と高2で修正をかけます。高2の段階で人生の目標を定めさせ、ゼロから学校選びをさせます。みんな偏差値で選びたがるんです。親もそう。でも、それは本人の幸せにはつながりません。偏差値なんか何の意味もない。どこの大学がどういう教育をして、教授には誰がいるんだ。そこから全部調べて決めていこうということでサポートしています。それが全部「夢カウンセリング」という形になっているわけです。

今回、出ると負けの野球部が東東京大会でベスト32になりました。陸上はインターハイ出場者が出ました。明確な目標を持っている子には、「夢シート(※1)」の結果がすぐ出ます。イメージの力と、明確になった日々やるべきことをやり抜く力によって、あっという間に成果が出ます。別に大学なんか行けと言っていないし、そういう教育も何もしていないですよ。でも夢シートをやらせただけで、MARCH(※2)と言われている中堅大学以上の入学者が4割増えました。または「僕はこの理由で早稲田大学のどこに入りたい」と決めると、ちゃんと入っていきますもんね。だから夢シートの成果は抜群。もうわかっています。『13歳のハローワーク』も必要。でもやっぱり、その前提になる価値観の部分が大切ですよね。

※1「夢シート」……子どもたちに夢を持たせ、達成させるための目標実現シート。実現のための具体的な取り組みを日々の生活に落とし込み、行動を促すことを目的としている。
※2「MARCH」……明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学の頭文字