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著名人インタビュー この人に聞きたい!
樋口弘光さん[アニメプロデューサー]
[INDEX]
- 第1章 学生時代に観たアニメ映画の映像表現が、心に刺さる。
- 第2章 一つの仕事をやり遂げるたびに、さらなる達成感を味わいたくなる自分がいた。
- 第3章 ~ アニメ制作現場 インタビュー ~
●第2章 一つの仕事をやり遂げるたびに、さらなる達成感を味わいたくなる自分がいた。
――入社してみて、イメージとのギャップはありましたか?
【樋口】チャレンジし過ぎかなと(笑)。冗談抜きで、2,3日で辞めようと思いました。
うちの会社は、本社に総務や経理、権利関係を扱う部署など、いわゆる管理部門が入っていて、制作は、近隣に10ほどあるスタジオで行っています。
ちなみに、スタジオでは、絵を描く人や色を塗る人、演出する人などが仕事をしていて、彼(女)たちはみなフリーランスで、就業時間とか退社時間関係なく仕事しています。
それで、新入社員は入社して1カ月間、スタジオ研修があり、アニメがどのような工程で制作されているか学びます。うちの会社の就業時間は10時-18時ですが、「ものづくり」の現場は、スケジュール・納期の都合で、なかなかどうして…。入社するまでは、普通に朝出社して仕事をして、夜には帰れるものだと思っていたので、大きなカルチャーショックを受けましたよ(笑)。
スタッフはフリーランスなので、好きな時間に来て仕事していいし、スケジュールに遅れなければ問題はないのですが、これからずっと大変だなぁと。自分に向いていないかもと思いました(笑)。
――辞めなかったのは、野球で培った根気のおかげでは?
【樋口】そうかもしれません。確かに、自分でも根気はある方だと思います。負けず嫌いで、周りにも負けたくないし、自分にも負けたくない。結果、何かやると長くやるタイプですね。今の仕事もそうだし、学生時代のアルバイトもそうでした。また、仕事を覚えると、このままでは終われないという気持ちが芽生え、次に挑戦したくなるのです。
――サンライズでは、入社後、どのようなキャリアパスを歩むのですか?
【樋口】入社して3年くらいで、おのおの方向性を決めていかないといけないですね。僕のようにプロデューサーを目指す人もいれば、演出家を目指す人もいます。あるいは、脚本家(シナリオライター)になる人もいます。
基本的には、プロデューサーは、サンライズに籍を置いて仕事をしますが、監督や演出家、脚本家は、独立してフリーランスとして活動するのが一般的です。
ちなみに、今回『銀魂』の監督を務めた藤田君とはサンライズの同期で、彼は、制作進行を経て、フリーランスの演出家になりました。
――樋口さんのキャリアパスについて、教えてください。
【樋口】この業界を目指したとき、僕は、アニメのプロダクションって、どんなことをやっているのだろうという程度でした。絵心もなかったので、アニメーターとして働くことは考えておらず、だからといって明確にプロデューサーを意識していたわけでもありませんでした。だから、経験を積んでから何をするか考えようと思っていました。
それを踏まえてお話すると、最初の3年は制作進行、次に制作デスクを4年、その後、プロデューサーになりました。それぞれの経験年数は、人によって異なります。
仕事の内容についてお話すると、制作進行は各話数のプロデューサー的な立場で、すべての基本がここにあります。たとえば、全13話からなる作品の場合、制作デスクが全体を管理することに対して、制作進行は、話数ごとに担当がいて、スケジュールから予算、スタッフィングまで行います。
制作デスクは、制作進行をとりまとめるチーフ的な立場で、言わば現場監督です。主な仕事は、全体のスケジューリング、予算、スタッフ管理です。たとえば、演出家にもアクションが得意な人がいれば、ギャグが得意な人もいるので、話の内容によって適材適所のスタッフィングを行います。
制作進行には制作進行のやりがい・達成感があるし、制作デスクには制作デスクのやりがい・達成感があります。1年目こそ辞めることしか考えていませんでしたが(笑)、2年目になると、辛さがやりがいに変わりました。さらに、制作デスクになってから辞めようかなと欲も出てきました。すると今度は、プロデューサーになって辞めようかなと(笑)。制作進行、制作デスク、プロデューサーと経験を積むごとに、仕事の範囲が広がり、やることも増え、さらに責任も重くなって大変ですが、僕には、プロデューサーが最も達成感がありますね。
――プロデューサーのお仕事について教えてください。
【樋口】企画立案したら、監督や脚本家、キャラクターデザイナーなどのスタッフィングをしつつ、制作費の調達、つまり、この企画にお金を出してくれるスポンサー探しをします。
スタッフィングと制作費の目途が立ったところで、実制作に入ります。並行して、契約業務等も行います。スポンサーやスタッフに対して、約束事やギャランティ(報酬)、著作権の取り扱いなどについて契約を交わす仕事です。
――予算はどのように見積もり、スポンサーはどのようにして探すのですか?
【樋口】漫画等の原作があるか、オリジナル作品なのかで費用が異なり、また、露出媒体も、テレビか劇場かOVA(ビデオアニメ)かで違ってくるし、テレビは放送時間帯によっても差があります。
スポンサー探しは、大ざっぱに言うと、原作作品であれば出版社、テレビ放映するならテレビ局と広告代理店というように、お声掛けします。さらに、後でビデオパッケージ化するなら、ビデオメーカーにも声をかけます。当然、諸条件が折り合わなくて、実現できない場合もあます。
このように、プロデューサーには、情報やお金、人、物が集中するため、ものすごい量の仕事を抱えることになります。それを全部さばくには、処理スピードを上げていかないと間に合わなくなってしまうので、とにかく忙しいですね。
それでも、関係者が一丸となって作った映像作品を、多くのファンの方が見て、喜んでもらえると、それまでの苦労が吹き飛ぶほど嬉しいです。
――今後のビジョンについて教えてください。
【樋口】僕が子どもの頃は、ゴールデンタイムにたくさんのアニメを放送していて、大勢の方々が見ていました。それが今は、深夜帯などに放送が集中していて、楽しみ方が変わったという気がしています。それはそれで良いのですが、また以前のように大勢の方々が日常的にアニメを見てもらえるような、そのような作品づくり、環境づくりに取り組んでいければと思っています。
――中高生にメッセージをお願いします。
【樋口】もし、15歳の自分に言えるのであれば、言ってあげたいと思うのですが、何でもいいから、好きなこと、興味のあることを極めてほしい。
僕は、面接を担当したことがあるのですが、そのとき、スポーツでも勉強でも遊びでも、何かを極めた人を面接すると、すごく楽しいんですよね。この人と一緒に仕事をしてみたいという気持ちにさせてくれるのです。何か極めることは、直接役に立たなくても、そこで身に付けた追求心や知識は、面接の場だけでなく、社会人になっても生きてきます。
だから、どんなに小さなことでもいいから、何か一つ、極めて欲しいなと思います。
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