HOME > 特集記事 > P.S.明日のための予習 13歳が20歳になるころには? > 環境―21世紀のビッグビジネス
地球環境は、一部の市民運動家やNPO・NGOだけではなく、今や一般的な関心事となっている。この章では、ビジネスや仕事という面から環境問題を見る。環境は、21世紀のビッグビジネスになりつつあり、また地球環境への配慮のないビジネスは淘汰されることが予想される。
[INDEX]
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1. 環境を守ることは合理的なこと
- 1-1 地球は優しくされなくても平気だ
- 1-2 地球環境を守るのは合理的なこと
- 1-3 環境問題のビジネス化という大きな流れ
- 2. ビジネス化の背景と仕組み
- 3. 結論
- 4. 環境ビジネスの概観
1. 環境を守ることは合理的なこと

生態系に優しい、地球に優しい、というような言い方にはずっと異和感があったし、今もある。現在起こっているさまざまな環境問題は、「地球」の問題などではなく、「人類」の問題だと思うからだ。二酸化炭素の排出量が無限に増えて地上から酸素がなくなっても、嫌気性(酸素に触れると死んでしまう生物)のバクテリアなどは生き残ることができる。大気圏のオゾン層が完全に破壊されても、対流圏の大気汚染がさらにひどくなっても、あらゆる国・地域の土壌や地下水がダイオキシンなどで汚染されても、すべての河川が干上がって全地球が砂漠化しても、温暖化で気温が10度上がっても、生き残る生物はいるし、そのほうが都合がいいという生物もいる。
わたしたちは、地球上の生物を代表して、ほかの全生物のために環境問題に取り組んでいるというような傲慢な思い違いをしやすい。わたしたちは、実際のところ、地球のために環境について考えているわけではないし、地球上のほかの生物のためでもない。わたしたちは、わたしたち自身に「都合がいい」地球環境を守ろうとしているのだ。しかも、そもそも地球環境を今のような深刻な状態にしたのはわたしたち人類である。地球は、別にわたしたち人類から優しくしてもらわなくても存続していくし、どんな形であれ生態系も存続していく。たとえば環境に配慮した製品というのは、「地球に優しい」のではなく、「人類の存続に都合がいい」ものなのである。
しかしそれでも、地球環境を守るのは合理的なことだし、わたしたち日本人は、高度成長時に汚染され破壊された自然を修復しなければならない。しかし、いったい誰が、なぜ、そして何のために自然環境を破壊し汚染したのかということは、前提として捉えておかなければいけないと思う。地球を汚染し破壊したのは人類であり、それもおもに先進工業国の人びとだ。そして皮肉なことに、現在地球環境の保全に熱心なのも、先進国の人びとである。多くの途上国の人びとは環境に関心を払う余裕がない。明日の食物に困っている人びとが環境を気にするだろうか。貧困に苦しむ南米の先住民や入植者が、飢えているわが子のためにジャングルを焼き払うのを、先進国は非難できるだろうか。環境問題は、途上国と先進国の利害が絡み、対立する重要な「南北問題」でもある。
しかし一方で、これまで啓蒙的なボランティア中心だった環境を守る活動は、「ビジネス」として定着しつつある。そういった環境問題のビジネス化にしても、もちろん先進国の主導によるものだ。そして経済合理性や企業利益という資本主義の原則を環境問題に利用するという考え方は、今後さらに主流になっていくだろう。「地球環境を守ろう」という啓蒙的な呼びかけではなく、「地球環境を守る自治体や企業や個人にははっきりとした利益がある」という呼びかけのほうがより力があるからだ。かつては、日本も含め、ほとんどの国や地域で、環境問題は公害問題だった。環境問題は、海や河川や土壌や大気の汚染が広がるのを制御するにはどうしたらいいかということからスタートした。もちろん現在もその課題を抱えているわけだが、経済合理性を導入して、地球的な視野から、さらに積極的で戦略的な方法が考えられている。
村上龍
P.S.明日のための学習
13歳が20歳になるころには
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いろいろな働き方の選択
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IT[INformation Technology]
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環境-21世紀のビッグビジネス
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バイオは夢のビジネスか(commiong soon...)