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職業としての自衛官(続き)

職業としての自衛官(続き)

自衛官になるのは合理的か
自衛官を職業・仕事の選択肢として取り上げることには異論もあるだろう。そもそも自衛隊の存在そのものが憲法違反だという意見もあるし、子どもたちに戦争を目的とした職業を紹介すべきではないという指摘もあるに違いない。だが、わたしは職業としての自衛官を出来る限り公平にオープンに紹介し、自衛官になることが合理的かどうかを考えるための材料を示したいと思う。

シェイプアップしながら給料がもらえる自衛官
わたしは米軍海兵隊基地と海上自衛隊基地のある町で育った。クラスには必ず自衛官の子どもがいて、友人も多かった。旧日本海軍の砲兵だった祖父から、いつも軍艦や海戦の話をしてもらっていたことも影響して、海上自衛隊には何となく親しみがあった。少なくとも自衛隊や自衛官を忌み嫌ったりすることはなかったし、それは今も変わらない。また、おそらく自分にもっとも欠けているものの一つだからだろうがわたしには軍隊における規律や訓練といったものへのあこがれがある。映画などでたとえばアメリ海兵隊の訓練の様子を見ると、大変そうだなと思うが、同時に、若いときに身体と精神を鍛えるのは悪いことではないと思ってしまう。

去年腰を悪くしてから、おもに腹筋のエクササイズを始めたが、50歳を過ぎてからでも肉体は規則的な負荷に反応して強化されていく。そのことを実感するのは案外気分がいいものだ。規律のある生活を続け、肉体と精神に負荷をかけて鍛え、自分が目に見えて変わっていくのを実感するのはきっと気分がいいのだと思う。自衛官を募集するHPなどにはそういったことが明記してある。つまり、自衛隊にいは規則正しい生活があり、部隊の中で共同行動をすることにより規律を覚え、さまざまな訓練によって精神と身体が鍛えられていくと書いてある。ボディビルやエアロビクスにはお金がかかるが、自衛官になると給与をもらいながら肉体をシェイプアップすることが可能だ。

自衛隊で資格を取るという選択
これから詳細を紹介していくが、自衛隊には実に幅広い職務・職種・職域があり、特別職国家公務員としての給与や手当をうけとりながら教育を受け、いろいろな資格を得ることができる。この不況下、自衛官の採用試験の競争は激しくなっている。たとえば平成12年度版の防衛白書によると平成11年度の採用試験倍率は女性を対象にした「看護学生」で約67倍、「陸上自衛隊一般幹部候補生」で約95倍、中卒者、高校中退者を対象にした「自衛隊生徒」(陸・海・空)で約30倍となっている。民間企業のようなリストラや倒産が無く、資格を取得しながら、給与がもらえて、保険・年金や福利厚生が完備し、食事や衣服や備品や住居が提供される。採用試験の倍率が高くなるのは当然で、こんな「おいしい職業」はないと思う人も多いだろう。

不自由な自衛官生活
それでは、自衛官になるリスクにはどんなものがあるのだろうか。まず、規律ある生活を支えるために、自由が制限される。幹部や既婚者以外は、駐屯地・基地内の営舎・学生寮で寝起きし、決められた日課に従わなくてはならない。課業のない土日、祝日は基本的に休みで外出も可能だが、当然決められた門限がある。またパイロットを養成する航空学生以外は、たとえば陸上・海上自衛隊に採用されても、自身で職種を選ぶことはかなりむずかしい。遊びや趣味の世界ではないのだから当然なのだが、たとえばイージス艦に乗りたいと希望しても、それがかなうとは限らない。

国民的な理解と敬意の不足
さらに大きなリスクとして、自衛官に対する国民的な理解と敬意が不足しているということがある。わかりやすい言い方をすると、ほとんどの男の自衛官あるいは防衛大生は合コンに出かけても、もてない。友人の自衛官幹部に聞いた話だが、男女とも、自衛官が征服で都市部のおしゃれなレストランなどに入ると、奇異の目で見られることがあるらしい。反戦・平和主義者からは基本的に嫌われてるし、災害時の救助活動などでも、充分な感謝や尊敬を受けているとは言えない。そして、最近になって最大のリスク要因が生まれつつある。カンボジアの国連平和維持活動や、イラク派遣問題における自衛官の生命の危険だ。

かつては戦争で死ぬというリスクはなかった
前述したようにわたしの故郷には自衛隊基地がある。そのためか、自衛隊は比較的身近に感じられていた。いろいろな資格が取れて、給与もまあまあで生活は安定するし、しかもどうせ戦争には行かないんだからと、自衛官になったり、防衛大学を受験する友人が大勢いた。わたしが中学高校のころ、特に裕福ではない家庭の子どもたちにとっては、自衛官は重要な職業の選択肢だった。冷戦のころでさえ、敵が侵略してくるというような事態は九州では想像できなかった。戦略的には核兵器が中心だったので、第二次大戦や朝鮮戦争やベトナム戦争のような通常兵器による地上戦が実際に起こるとはとても思えなかった。それに憲法によって自衛隊の海外派兵が禁じられていた。つまり、たとえ自衛官になっても、戦争で死ぬという可能性はほとんどなかったのだ。

結論:海外派兵という新しいリスク
だが今後どうなるかはわからない。もしイラクに自衛隊が送られれば、それは確かな前例となるだろう。アメリカの新保守主義者たちがこれからも外交政策のイニシャチブを取り続ければ、中東やその他の地域で戦争・紛争は続き、おそらくさらに拡大して、戦費の増大に耐えられないアメリカ政府は忠実な同盟国である日本に軍事的な協力を求めてくるはずだ。現在のイラクに駐留しているアメリカ軍の兵士は、平均年齢20代前半で、初任の年収1万2千ドルと家族の医療費無料という特権がのどから手が出るほど欲しい若者たちがほとんどだ。その背後には貧困化人生の挫折があり、そして市民権を手に入れたい移民1世の子どもたちも多い。

高校のころ、「適当に勤めあげて、資格を取って、貯金して、可愛い嫁さんをもらうよ」という感じで防衛大学を目指す友人に対して、それもいいかも知れないな、とわたしは言ったものだ。皮肉でもなんでもなく率直な気もちだった。今でも自衛隊にはたくさんの友人がいて、さらに取材などでも多くの自衛官にお世話になっている。わたしは彼ら自衛官の友人たちと、自衛隊の今のあり方の是非は分けて考えるようにしている。戦争や紛争で死んだり、つらい思いをしたりするのは、いつの時代も「裕福ではない家庭の子ども」である兵士なのだ。

自衛隊員の労働条件
自衛官は防衛庁に所属する特別職国家公務員で、基本的に下記の条件で働いている。給与などについては自衛隊法で定められているため、たとえば世情や任務にともなっての変更が生じた場合は、自衛隊法を改正するということになる。

給与(平成15年4月1日現在の初任給):

(1)幹部候補生:大卒:21万4600円、大学院卒:23万2900円
(2)一般曹候補学生、曹候補士、看護学生、二等士:16万0400円
(3)自衛隊生徒:15万3100円
(4)学生手当:(防衛大、防衛医大):10万6700円
諸手当
:住居、通勤、扶養、単身赴任、乗り組、航海、落下傘、災害派遣など
昇給
:年1回
賞与
:約4.5カ月分 年2回(6月、12月)
勤務地
:各都道府県の駐屯地および基地など
勤務時間
:8:00~17:00(地域差有り)
休日
:完全週休2日制、祝日、年末年始、夏季特別休暇、年次有給休暇(24日)
保険
:団体取扱生命保険、生命共済、団体生命保険、団体傷害保険、火災保険など
年金
:退職共済年金、若年定年退職者給付金、障害共済年金、公務災害保障
福利厚生
:宿舎・保養所(札幌、蔵王、東京、伊豆、軽井沢、舞鶴、呉、別府)、スポーツ施設(テニス、野球場、ゴルフ練習場など)、健康管理(人間ドック健診)、貯金業務(普通、定期積立、定期貯金)、貸付業務(普通、特別、住宅、財形など)、物資販売事業(月賦、売店)

雇用の面で一般公務員との大きな違いは、若年退職制と任期制を取り入れているところ。任期制は労働期間を2~3年で区切った制度で、若い人材を確保するためのものである。いずれの場合も、再就職の必要や可能性があるため、資格取得や再就職先の援助を受けることが出来る。ちなみに自衛隊員は、その身分によって定年退職の時期が異なる。たとえば、最高階級である将は60歳で定年を迎えるのに対し、三等曹の場合は53歳と7年も差がある。

幹 部
























































































●自衛隊生徒は三等陸・海・空士からスタートする。
●航空学生・看護学生・一般曹候補学生・曹候補士・および任期制自衛官は二等陸・海・空士からスタートする。
●幹部候補生と防衛大学校・防衛医科大学校の学生は陸・海・空曹長からスタートする。


自衛官になるには
自衛官になるには学歴によって、いくつかのコースがある。到達点は本人の努力しだいであるが、スタート時の階級と昇進のスピードは学歴によって異なる。いずれの場合も採用試験があり、その内容は基本的に筆記試験と口述試験、身体検査、適正審査などである。身体検査では合格基準が設けられており、身長や肺活量、視力などに規定があり、健康なからだを持った人が求められている。
夏季に入隊時の学歴・年齢などの種類とそれによりおこる違いを示す。


中卒・高校中退者(自衛隊生徒)
中卒で自衛隊に入る場合は、特別国家公務員としての収入を得ながら、教育を受ける自衛隊生徒の扱いになる。陸・海・空のいずれの場合も、4年間の生徒過程(一般高等学科を学んでから、技術訓練や専門教育を受ける)を経て、三等曹として部隊に配属される。また高校の通信課程に入学することにより、高卒の資格を取得し、防衛大・航空学校を受験し、幹部への道を目指すことも出来る。


高卒(防衛大学校生・防衛医科大学校生・航空学生・看護学生)
高卒で自衛隊に入る場合、いくつかの自衛隊の専門学校に入り、スキルを身につけるという道がある。まず防衛大学校は、一般的な4年生の大学と似ている。違いは、学費・入学金が無料で、逆に特別国家公務員として学生手当を得ることができ、全員が学生寮に入ること。また、自衛隊において実践的スキルとなる学問を学ぶところだ。卒業後は、部隊や海上勤務などを経て、三等陸・海・空尉の幹部自衛官として働く。もしくは大学院的存在である防衛大学の研究科か一般大学の大学院で、さらに勉強をするという選択肢もある。
医科幹部自衛官を目指す場合は、防衛医科大学校に入学する。防衛医科大学校生の場合、身分は国家公務員。待遇は防衛大学校生と同様で、学費・入学金は無料。全員学生舎に住み、衣服・寝具・食事が支給され、毎月学生手当が10万6700円(平成15年度)支給される。卒業後、9年間自衛官として勤務する義務があり、医師国家試験合格すると二等陸・海・空尉に任命される。ちなみに9年以内に自衛隊を離職する場合は、卒業までの経費を返さなければならない。返す金額は自衛官としての勤続年数で計算される。また卒業してすぐに離職する場合には、最高で5000万円ほどを返すことになる。

自衛隊内で専門性のある職種を目指す場合、自衛隊の教育機関には、医師のほかに看護士・パイロットの学校がある。看護の仕事をしたい場合は、看護学生として自衛隊中央病院高等看護学院で3年間学ぶ。看護し免許を取得した卒業後、陸上自衛隊所属の自衛隊病院に配属され、二等陸曹として働く。パイロットや戦術航空士になりたい場合は、航空学校に入る。約2年間の学校を卒業すると、飛行幹部候補生となり、海上・航空自衛隊で三等海・空曹としてスタートをきる。その後さらに教育や訓練を受け、入隊後約4年でパイロットの証であるウィングマークを受ける。


大学卒・大学院卒(一般幹部候補生・海上技術幹部候補生・医科・歯科・薬剤科幹部候補生・賃費学生)
採用には年齢的な制限がある。専門大学ではない普通の大学を卒業した場合は20歳以上26歳未満、大学院卒は28歳未満であることが条件だ。医科・歯科・薬剤科幹部候補生の場合は、専門の大卒(見込み)異常で30歳未満、薬剤は26歳未満、薬学修士取得者は28歳未満であることが条件になる。

大学・大学院を卒業して自衛隊に入る場合は、いずれも幹部候補者として扱われる。普通の大学・大学院卒業者は、まず一般幹部候補生として扱われる。三等陸・海・空尉としてスタートし、職種は医師関係を除いたものとなる。ただし技術系の学科で学んだ場合は、海上技術幹部候補生として、海上自衛隊の施設・艦船・武器などに関わることも。医学系の大学を卒業した場合は、医科・歯科・薬剤科幹部候補生となる。医科・歯科は二等陸・海・空尉として、薬剤は三等陸・海・空尉からスタートする。幹部候補生としての所定の期間教育を受けた後、さらに昇任されて幹部自衛官となり、将来的に高級幹部としての組織の重要なポストにつくことができる。

またこの他に、大学(大学院)で医学、歯学、理学および工学を専攻し、自衛隊に勤務しようとする学生は、優秀な人災確保のために学資を貸す賃費学生制度を利用することができる。賃費学生は、大学卒業後に、陸海空自衛隊の幹部候補生として採用される。学資金の額は2003年4月末の数字で月々5万3000円。貸し与えられた学資金は、賃費学生であることをやめたとき、あるいは隊員となった者が退職したときは原則として返却しなければならない。


18歳以上であることが採用条件(一般曹候補学生・曹候補士・任期制自衛官)
特に学歴を問わず、年齢制限があるものを紹介すると、自衛隊の曹への基幹要員として採用される、一般曹候補学生・曹候補士がある。一般曹候補学生の場合、二等士として採用後、約2年間の教育を修了すると、三等陸・海・空曹に昇進し、全国の部隊に配属されることなる。曹候補士は、採用後役3ヶ月の教育を終えると部隊で勤務を始める。そして3年後に選抜で三等陸・海・空曹に昇進する。

また任期制自衛官という、自衛隊における若い人材を維持するための制度がある。この場合は、教育部隊や一般部隊で教育訓練を受け、陸2年(技術系は3年)、海・空3年を1任期として勤務する。1任期終了後には、退職して就職することもでき、退職者は就職支援を受けることが出来る。また継続して自衛隊で働くことも、夜間・通信教育による上級学校への通学も可能。ちなみに一般曹候補学生・曹候補士・任期自衛官にも、採用に年齢の上限がある。一般曹候補学生は24歳未満、曹候補士・任期制自衛官は27歳未満であることが条件だ。


その他免許取得者(医科・歯科幹部自衛官・海上自衛隊技術幹部・陸上自衛官・看護・技術海曹)
すでに専門技術やそれを証明する国家資格を持つ人は、医科・歯科幹部自衛官・海上自衛隊技術幹部・陸上自衛官・看護・技術海曹として、自衛隊で働くことができる。


陸上・海上・航空自衛隊の職種
各部で必要に応じたさまざまな職種がある。また自衛隊では勤務していくと、資格や免許を入手することができるのが、大きな特徴である。

(書籍「13歳のハローワーク」より)


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