詩人


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昔から詩を書くことで生活していくのはほとんど無理だったが、今は特にむずかしい。基本的に、詩は象徴的なものだ。言葉のシンプルな組み合わせで、普遍的なものを象徴する。その国が近代化される過程には、戦争や内乱や恐慌など、必ず激動期があり、民族や社会に共通した悲しみや喜び、それにある特定の気分が生まれる。優れた詩人は数行の詩句でその喜びや悲しみや気分を表現する。たとえば「雨ニモマケズ、風ニモマケズ」という宮沢賢治の有名な詩句は、当時の多くの人びとの気分を象徴していた。激動期から成熟期に移行すると、多くの人びとが共有できる悲しみや喜びが失われる。今の日本には幼児から老人まで国民すべてが口ずさめるような歌がないが、それは作曲家や作詞家や歌手たちの怠慢ではなく、国民に共通した悲しみや喜びがなくなったからだ。つまり、歌と同じく、詩が求められるのは社会の激動期だと言えるだろう。しかし、表現としての詩がすべて消えたわけではない。全国民的な悲しみや喜びはなくなったが、たとえば10代の女の子だけに「特有の」気分といったものは残っている。そこで、ある特定の世代に詩が求められ、商品価値を持つことがある。ただそれらの多くは若い女性のためのもので、イラストや写真が付き、手軽に読めるものとして流通する。激動期の詩のように、生き方を変えるような衝撃力が求められることはなく、おもに、「あなたは一人じゃない」というような一体感を与えてくれるものが多い。ポップスと同様に、10代の女の子に購買力があるために成立する商品で、決して歴史に残ることがない。いずれにしろ、詩を書くための教育や訓練というのは基本的に不要だ。詩は、すべての人に開かれた表現で、自分や世界を客観的に観察できる感覚を必要とする。詩を書くことは、たとえば自分の心の傷に向かい合うときなどに効果的だが、そういった個人的な表現と、職業として詩人を目指すことは、まったく別のことだと考えるべきである。

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