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著名人インタビュー この人に聞きたい!
渡邉美樹さん[ワタミ株式会社 代表取締役社長]



第3章 子どもたち、そして大人たちへのメッセージ

今、イラクで爆弾が落ちていることをわからんやつが、職業なんか選べない

渡邉美樹/ワタミ株式会社 代表取締役社長

【渡邉】例えば今、イラクで爆弾が落ちていることをわからんやつが職業なんか選べないと僕は思っているんです。発展途上国の食糧問題について、何が起きているのかをちゃんと言えた上で仕事を選んでいるのかということです。単純にこの仕事がいいな、お金が儲かったらいいな、どれが収入高いの、となっていくと、早い話、大学を出たやつは給料がよさそうだからいい大学に入る、それが幸せだ。こういう非常に安楽な形になるわけですね。

昔、お金持ちになることはすごいテーマでした。お金が幸せをつくる。でも先進諸国ではこれだけニート、フリーターが増えている。なぜか。前はお金持ちになりたいから仕事を選んだ。今はお金はあるから仕事を選ばなくなった。それなら2番目の欲、要するにもっと次元の高い欲を子どもに持たせなきゃいけないんですよ。

子どもたちと接してわかるのは、いろんな職業があることを知らないから選ばないんじゃないんですよ。確かに知らないんですが、その前に、自分の存在が周りの人たちによりよい影響を与えたいという欲がない。つまり自分が周りの人の幸せに少しでもかかわれたらいいな、じゃあ、どうやってかかわれるかなと考えたときの職業選びにつなげたいんです。

『13歳のハローワーク』は、価値観をつくり上げた上で使う、最後のツール

――現在、キャリア教育や職場体験など、職業が切り口の教育は増えてきていますが、渡邉さんがおっしゃる、その前の教育、そして、もっと上の次元の欲というところまでは、ほんとうにまだまだ達していませんね。

渡邉美樹/ワタミ株式会社 代表取締役社長

【渡邉】大学4年生の4割が就職活動をしないそうです。働きたくないから。残りの6割、つまり就職活動をしているうちの8割は仕事観を持っていないらしい。それは職業観教育をしていないからだというのは安易すぎる。問題はもっとその前にある。例えば日本人としての責任だとか、人間とは、というところからちゃんと入っているかどうか。別に押しつけるつもりはなくても、例えばカンボジアの子どもたちの生活を見て何を感じるかというところから入っていかないと職業観教育というのは成立しないんです。それが郁文館夢学園の3年半で一番強く思っていることです。最初は、夢を持たせよう、夢を持たせるにはどうしたらいいかとずっと追求していったんですが、駄目なんですよ。

今の子どもたちには「ハローワークマップ」を見ても、前段になる価値観がない。それがないから、マップを見ても上っ面で終わっちゃうんです。結局、いい大学に入ればいいとやっぱり思っている。駄目なんだ、それじゃ。マップを見た子は、そのために好きな大学を選び、その大学で勉強しようというスタンスを持たなきゃいけない。あるべき形で社会人になっていくためには、その前段階が必要なんですよね。
だから『13歳のハローワーク』は、すぐには役に立たない。前段までの価値観をつくり上げることができて、その上で使う最後のツールなんですよ。そうでないと、結局「こんな仕事があるんだね」という「知識」で終わっちゃう。根っこがしっかりしていないと、たとえマップを見ても、彼らの心に火がつかないんですよ。

――先ほどの「夢シート」のお話とつながりますが、その世界観があるかないかで目標を持ったときのパワーの出し具合が違うわけですよね。「この人に聞きたい」でいろいろな方にインタビューさせていただいていますが、今の子どもたちは世界観や目標を持つきっかけがない。しかし持ったときにはすごい力を出すんだというお話は何度か登場しています。

【渡邉】時代は変わっても、子どもたちの感性は変わっていないと思います。鈍っているのはむしろ親だと思いますね。普段接していて感じるのは、とにかく今の子どもたちの問題の8割は親のせいです。親に価値観がない。親に夢がない。だから子どもたちは価値観を持たない。夢を持たない。親に世界観がないから子どもたちも世界観を持たない。理由は簡単ですよ。

「自分のことばかり考えて生きているんじゃないの?」と、大人たちに僕は言いたい

――お話を伺っていると、郁文館夢学園のカリキュラムをうらやましいと感じる親子もたくさんいると思います。サイトの読者のために、これから仕事選びをしていく子どもたちに向けた社長からのメッセージをいただけますでしょうか。

渡邉美樹/ワタミ株式会社 代表取締役社長

【渡邉】僕から、子どもたちへのメッセージは「とにかく社会に目を向けなさい」ということ。それから「自分だけのんきに生きてていいと思うな」と。
僕は生徒に向かってよく言います。「今こうしていても、一分間に何十人もの子どもたちが飯を食えないで死んでいる。お前たちは、ちゃんと生きろ」と。そういう価値観がないと、職業観につながっていきません。

実は、これが問われているのは今の大人なんです。「自分のことばかり考えて生きているんじゃないの?」と、大人たちに僕は言いたい。
学校で我々がサポートしますが、学校だけではできないんですよ。だから僕は親に、学校はこういう教育をしているんだから皆さんも世界観を持ってくれ、まずそこから始めようよということで、今、一生懸命、親の啓蒙に入っているんです。すごく難しい。だから、これはすごい仕事なんです。

僕は60歳で事業を退きます。そのときは地球に一つの教科書をつくりたい。僕のライフワークとしてやるよと宣言しています。「周りと一緒に幸せになる」、こういう考え方を地球上の人みんなが持てばいい。そういう価値観を持つきっかけを子どもたちに提供したい。それを小学校3~4年生ぐらいにアプローチできる形でつくりたい。その次に「13歳のハローワークマップ」で仕事を探し、「夢シート」で実現する形でしょうね。間違いない。その3段階になっていると思うんですよ。

代田さん、ぜひ今度うちの学校へ話をしに来ていただけませんか。夢を広げる「夢達人コース」で職業観全般の話をしてください。楽しみにしてますよ。

――ありがとうございます。ぜひ、参加させてください。


編集長代田のインタビュー後記

渡邉美樹と代田編集長

今回、起業家渡邉美樹社長の関連書籍は、全部読んでインタビューに臨みました。
仕事や人生に対して、とにかく一途な社長の生き方に感銘し、根拠はありませんでしたが、インタビューは盛り上がるだろうという予感がありました。案の定、エネルギッシュな渡邉社長とお会いし、教育論について時間を忘れて話に夢中になりました。

私自身はこの機会をきっかけに渡邉社長に弊社トップアスリートの教育事業に力を貸して頂きたいとあれこれ提案を考えていきましたが、話をするうちに、逆に渡邉社長から、郁文館夢学園の夢教育に協力して欲しいとお願いをされてしまいました。

インタビューの翌日、早速、郁文館夢学園の石田事務局長から『日本の教育改革に向けて話がしたい』という電話がはいり、先日より打合せが始まりました。“職業観を広げる”13歳のハローワーク公式サイトと“夢に日付をいれる”夢教育プロジェクトとのコラボレーションで、かつてない教育カリキュラムが出来上がる予感がしています。